さよなら-1
『もう別れようか。』
一年9ヵ月の同棲生活に終止符を打つ言葉。
何気ない会話から発展した言葉。
勢いで言ってしまった、とか、そういうものではない。
穏やかに、優しく、自然と発していた。
『りか…?』
悲しくて、力強い。
そんな目を向けながら私の名を呼ぶ彼。
彼のことは嫌いなわけではない。
それどころか、大好きだ。
ただ、このまま一緒にいてもお互いが邪魔なだけ。
仕事、趣味、私。
どうにか上手く廻そうと、彼は一生懸命だ。
凄く嬉しいけれど、同じくらい辛かった。
私は彼の自由なところが好きだった。
まさか自分で彼の好きなところを奪ってしまうなんて…
人の欲は恐ろしい。
『りゅうた…大好きだよ。』
彼の目を見て微笑む。
僅かに視線をずらし、小さく頷く彼。
これ以来、この話はしていない。
ただ普通に二人の日々を過ごす。
毎日ご飯を作り、洗濯をし、掃除をする。
晩御飯を作りながら彼の帰りを待つ。
お風呂に入って一緒のベッドで寝る。
ただ、私はいつもより少し忙しかった。
彼と過ごしたこの部屋を出て行こうと決めた私は、不動産屋と一緒に転居先を探
してまわっていたからだ。