一夜の再会-10
「…秀人…今日は…ありがとう…」
「…オレの方こそ…」
「じゃね。」
「…気を付けて。」
涼子は背を向け前かがみに車の後部座席へ入ろうとする。
「…涼子…!」
秀人は何か言おうとした。
「!…何?」
彼の異変に敏感に反応し、涼子はしっかりと振り返った。
「あっ…いや…。体に気をつけて…」
そんな事を言おうとした訳であるはずがなかった。
「…うん。秀人も…元気でね…。」
彼女はなんとも言えぬ表情でそう言い残し、車に乗り込んだ。行き先を告げるとその車はゆっくりと走りだした。
涼子は車内で俯いたまま秀人の視界から消えてゆく。
それを黙って見送りながら秀人は思っていた。自分はさっき何を言おうとしていたのか?伝えなくてよかったのだろうか?十年前のように後悔するのだろうか?
―いや、違う。十年前は言いたかったことが言えなくて後悔した。今は言えなかったのではなく、言わなかったのだ。後悔はしない。―
これで十年前の恋も終わりを告げるだろう…か?この再会は二人の関係の終わりなのか、あるいは始まりなのかも知れない。
―その答えは、今は誰にも分からない。