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結界対者
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結界対者 第四章-1

―1―

 樋山が消えた。

 その事実は、俺が初めて経験した人間の絶対的な死であり、間宮にとっての最悪な結末だった。
 間宮は泣き叫びながらその場に蹲り、俺はどうする事も出来ずに、ただ立ち尽くし……
 そして今は、その全てが過去に変わった今日、つまり樋山が消えた翌日である。

 昨日は、あの後、間宮とはロクに言葉を交さないまま、いつもの大通り沿いの歩道で別れた。

 そして今朝。

 アイツは、いつものタバコ屋の角には現れなかった。
 でも、なんとなく、こうなる事は予想していたし、その理由もはっきりと判っていたから、特に電話を鳴らしたりタイムベルまで迎え行く様な事はしなかった。
 遅れて来るのか、それとも休むのか、それだけが少しだけ気にはなったものの、改めて考えてみれば別に元々約束をしていた訳ではないし、そこまで心配してやる事もない様な気がして、そのまま俺は学校へと向かったのだった。

 しかし、だ。

 そこまで心配してやる事もない、などと思いながらも、今俺は間宮のクラスへと廊下を足早に向かっている。
 ああ、これに関しては、くだらない言い訳はやめておこう。
 今、この二限目の休み時間になって、はっきりと気が付いた事だが、結局俺は間宮の事が心配なのだ。
 まあ、間宮とは、色々と何度もヤバイ目に遇ったからな、情も移るってもんさ。

 明日から始まる連休の為だろうか、行き過ぎる廊下の至る所に何処かうわついた様な空気が流れていて、そいつを感じる度に俺は、軽く舌打ちをしてやりたい衝動に駆られた。

 こっちは、それどころじゃ無いってのに……

 ちなみに、明日から連休が始まるって事は、今朝のホームルームの時に馬鹿本の口から聞くまですっかり忘れていた。
 結局、今もそれどころじゃないが、最近もそれどころじゃなかったって事か。
 まあ、いい。
 とりあえず今は、あの間宮をどうするべきか考えようと思う。
 あのままでは何かと困るし、何だかとてもやりにくいし……
側に居ると、辛くて息が詰まりそうだから。

 間宮のクラスに辿り着き、それとなく教室の中の様子を伺っていると

「あれ、柊君!」

不意に背中から呼び止める声が聞こえた。
 思わず慌てて振り返る、するとその声の主は驚きの丸い双眸を向けながら「きゃっ」と短く、そして

「ど、どうしたの?」

と、そのまま続けた。

「あ、春日さん……」
「うん、久しぶりね」

 そこには、間宮の数少ない友達、春日さんが立っていて、思わず俺は素直に「これは、ツイてる」と心の中で呟いた。
 実のところ、あまり得意では無いのだ、よそのクラスの扉口から「誰々は居ますか?」みたいに訊くのは。


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