結界対者 第四章-8
って、おい、なんだ、あれ!
その時、突然、二人の目の前のオレンジ色の空が左右真っ二つに割れた!
予測不能な事態に俺達は固まり、どうする事も出来ずに、ただ砂の上に立ち尽くす。
「ちょっと、何よ、コレ!」
「解らない、解らないけど…… 何か来る!」
次の瞬間、その空の裂目から現れたモノを見て、更に俺達は息を飲んだ。
「なあ、間宮、これって……」
「ええ、前に旋風桜の結界でアタシ達が戦った忌者…… 人狼よ!でも、なんでこんな所に!」
―4―
「な、何で、忌者が! こんなトコに来るのよ!」
裂けた空の狭間から現れたのは紛れもなく忌者、しかも俺が初めて対者として戦った相手である、あの人狼だった。
「間宮!とにかくやらなきゃ!」
「やるって、何を!」
「アレを倒さなきゃ……」
言いかけて俺は、今自分達が居る場所に気が付く。そう、ここは、神埼から遠く離れた海岸で、恐らく俺達は
「無理よ! ここでは結界の力は使えない!」
そうだ、力を使う事は出来ない。
「……っ! と、とにかく逃げるんだ!」
必死に利き足を蹴り出し、その場から動き出そうとするが、砂浜に足をとられて思う様に前に進めない。そしてそれは、パンプスを履いている間宮にとって尚更の様で、駆け出そうとするなり「キャッ!」と短い悲鳴を上げ、砂の上へと前のめりに倒れてしまった。
「間宮っ! 大丈夫かっ!」
「大丈夫な訳ないじゃないのよっ! 一体どうしたら良いの? ここじゃ力は使えないし、あんなのを野放しにしたら大変な事に…… 」
俺に訊かれても困る!
が、しかし、考えるより他に道は無いから、混乱した頭で必死に考えるのだ。警察を呼ぶとか、砂にもぐって隠れるとか……
「柊っ、前、よけて!」
間宮からの刹那の叫びに、外れていた視線を元に戻す。すると、先程まで宙に在った筈の人狼が目と鼻の先、ほんの数メートルの所まで迫り、その猛然たる牙を剥きながら
「タガアアアアッ!」
空を震わせる程の倣叫を上げた。
「うお…… 」
終わった…… 別に覚悟を決めたとか、そんな大それたもんじゃない。ただ、漠然と、そう感じた、その時!
「な、なんだ…… っ?」
突然、目の前を、漆黒の巨大が覆った。そして、それは、迫り来る忌者を遮り、凄まじい勢いで砂塵を巻き上げながら、更に烈しく周囲を震わせる。
「柊っ! これ…… ガーゴイル!」
間宮の驚愕の叫びに、初めて俺はその全てを理解した。そう、それは
「ガーゴイル…… だと?」
楽箱で樋山と共に消えたガーゴイル、あの黒い炎の竜で、何処からともなく現れたそれは、そのまま空へと舞い上がり両翼を翻しながら遥か上空から此方を見下ろしている。
助けて…… くれたのか?
そして次の瞬間、その憶測は確信に変わった。