結界対者 第四章-7
「あーあ、駄目ねぇ、これじゃ気分転換になんかなりゃしないじゃない! ねえ、何処か気の効いたトコロへ連れて行ってよ!」
「気の効いたトコロ?」
「例えばさ、海岸線を突っ走るとか!」
「はあ? 海か? ここから二時間くらいかかるぜ?」
「いいじゃない、休みなんだしさ!」
凄く意味の無い事に感じるが、それも悪くはないと少しだけ思う。
それに、間宮が行きたいというのだから、今日の場合はそれもアリだ。
「よし、飛ばすから、しっかりつかまってろよ!」
「言われなくたって、そうするわよ!」
車道に出て、クラッチを繋ぎながら、アクセルを思いっきり開ける。
再び景色が加速を始めて、シートの下でエンジンがバタバタと煩く叫び始める。
少しだけ、腰に回された腕に、力を込められた気がしたけど、気にはせずにこのまま走ろうと思う。
海の見える場所まで、傷心の間宮を乗せて。
目の前に海岸線が広がる頃には、陽射しは既に傾き、頬に当たる風も心なしか少し冷たくなってきた。
なんとなく、間宮が寒い思いをしていないか気になったが、自分から「寒くないか?」なんて聞くのは、どうもキザな気がして、そのまま何も言わずに、ただ走り続ける。
すると、不意に
「ねえ、柊!」
背中から耳元へ声が響いた。
「何だ、寒いのか?」
「大丈夫、それよりさ、海に降りてみようよ!」
「え? ああ…… でも、まだ冷たいぞ?」
「少しだけよ、せっかく来たんだから」
防波堤にバイクを停めて、誰も居ない砂浜へと、頼りない足取りで降りていく。
波は湖の様に、驚く程に静かで、なんだかドラマのワンシーンの様だと、ついガラにもなく思ってしまう。
「あはははっ!うーん、良いね!やっぱ、海の癒し効果は絶大だわっ!」
まあ、隣で両手を広げて、高笑いをしている間宮には、俺のハイセンスな趣きは到底理解出来んだろうがね。
「何? 柊、何か言いたそうね?」
「えっ? まさかお前、また何となく判ったとか言い出すんじゃないだろうな」
「うーん、そうかも」
「本当に、か?」
「あはははっ、本当かもよ? 例えば、間宮と海に来れて嬉しいとか、間宮が喜んでなによりだ、とか……」
「思ってない、断じて思ってないぞっ!」
「アタシは、嬉しかったよ?」
……間宮?
散りばめられた、オレンジ色の輝きを見つめながら、笑顔のままで間宮が呟く。
俺は、何て応えたら良いか解らなくて、ただ……