結界対者 第四章-6
「すごーい、これ!結構早いじゃない!」
「あたりまえだ、有名なバイクなんだぞ? オマエには全然解らないだろうがっ!」
「あははっ、さっきは悪かったわよ! それより、何処に行くの?」
「そうだな、うーん……」
考えながら彼方に視線を移す、すると見覚えのある白い建物が、立ち並ぶ景色の合間に小さくその姿を見せた。
楽箱だ……
後ろに座る間宮も、同じくそれに気が付いた様で、小さく「あ」と声を上げた後、それまでの様子がまるで嘘だった様に、黙りこんでしまった。
「なあ、間宮」
「えっ?」
「様子、見に行ってみるか?」
「別に、いいけどさ」
特に理由はない。
しいて言うならば、少し気になっていたから。
あの後、主を失った楽箱が、どうなったのかとか、樋山の所属していたジルベルトという組織の事とか。
それと、色々とあった為に間宮は気が付いていないが、そのまま祭壇の上に焔の大石が置かれたままになっていた事も、だ。
―3―
バイクに跨ったままで近付くと、その白い建物は、周囲をロープで封じられ、全ての看板は外されて、あのオープニングの時に見せた華々しさなどはまるで幻であったかのような様相を晒していた。
「中には、入れないみたいだな」
「……うん」
外から見てても仕方が無い、別に来たからと言ってどうって事なかった、と諦めかけたその時!
「柊、見て! あそこ、誰かが居る!」
背中で、間宮が突然声をあげた。
振り返り、間宮が指す方を見上げると、確かに人影が数人分、建物の上階部分の窓辺に揺れている。
「まずいな……」
中には、焔の大石が放置されている。
それに、あの人影は、まちがいなく樋山に西洋呪術とかを仕込んだジルベルトの連中だ。
しかし、今は……
俺は、もう一度振り返り、間宮の顔を見る。
そして、昨日の今日で、もう一度行動に出るのは、やはり間宮にとっては酷だと思う。
後で、一人で来るか……?
「柊、大石なら、大丈夫よ」
「えっ?」
なんで……
「今、なんとなく、その事を考えてる気がしたからさ。違った?」
「いや、その通りだ。でも、なんで判った?」
「よく解らないけどさ、対者を始めからアタシ、こういう事って結構あるのよ。たまにお姉ちゃんの事も、解る時がある。ふふっ、力の副作用みたいなものかしらね」
「ああ、そうか」
俺は驚いた事と、見透かされた事に対してのバツの悪さで、思わず言葉を失なってしまった。
釣られて、間宮もそのまま黙りこむ。
そして暫くの沈黙を続けた後、最初にそれを破ったのは、背中からの間宮の開き直った様な一声だった。