結界対者 第四章-5
「でぇっ、これっ?」
「そう、これ!」
叫ぶ様に問掛けながら間宮の目が丸くなり、続けてその顔がみるみる紅潮していく。 そして、その全ての感情は、直後の叫びに姿を変えて一気に爆発した。
「なななな何よっ!原チャリじゃないっ!柊なんかに期待したアタシが馬鹿だったっ!あー馬鹿だったっ!!」
「お、おい! コイツは原チャリじゃねーぞ?ベスパだ、ベスパだ!立派な単車だっ!そりゃ、高速は走れないけど、ちゃんと二人乗りも出来るし……」
「えっ…… 二人で乗れるの?」
「ああ、乗れるけど……」
「じゃあいい、格好悪いけど、我慢してあげる」
「何で、お前にそこまで言われなきゃなんねーんだよ! 絶対乗せてやらないかならなっ! 帰りは歩いて帰……」
「あのー、よろしいでしょうか」
気が付くと、全く失礼な間宮と俺の間に、申し訳無さそうに店員が立っていた。
とりあえず、失礼な間宮などは無視して、店員に引き換えの為の「お買い上げ票」を差し出しながら
「ああ、すいません。柊です、取りに来るのが遅れてしまって、本当に申し訳ない」
軽く頭を下げる。
「いえいえ、一応クラッチワイヤーはウチの仕様のモノに交換しておきましたが、若干レスポンスが……」
「別に構いませんよ、ありがとうございます」
「すいませんね。そうだ、今日はお連れの方といらっしゃったんですか?」
「え? あ、はい」
全く、お連れの方だか、お連れの馬鹿だか判らんがね。
「あの、もしよろしければ、ヘルメットを、もう一つサービスさせて頂きましょうか?」
「え?ああ……」
「ええっ、ホントに良いんですか?ねぇ柊、サービスだってさ!ホント、素敵なお店よねぇ、ここ!」
店員に応えようとした俺を遮る様に、満面の笑みを浮かべた間宮が、高らかに声を弾ませる。
全く、店員のヤツ、余計な事をしやがって。
だが、まあ、いい。
あればあったで、困るものでもないし、誰かを何かの用事で乗せる時にでも役に立つ……
「へへ、じゃあこのピンクのを頂こうかしら。あと、店員さん、マジックを貸して頂けます?」
「え? ああ、はい」
「えっと、ここに『アタシ専用』っと……」
……って、おいっ!
「何をマジックで書いてやがるっ!しかもピンクって!」
「別に良いじゃない」
「良くないっ、思いっきり良くないっ!」
叫んだところで、後の祭りだった。
結局、俺は買ったばかりのバイクに、間宮と悪趣味なピンクのヘルメットをセットで積んで帰る羽目になっちまった。
わざわざ店の外にまで出て、深々と頭を下げる店員に軽く会釈で応えながら、昼下がりの街へと滑り出していく。
腰に回された間宮の腕と、慣れない左グリップでのシフトチェンジを気にしながら、迫り来る街並みを追い越していくと、なんだかこのままずっと走っていたくなって、俺は少し深めにアクセルを捻ってみた。