結界対者 第四章-4
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「な……?」
翌日、約束通りに、目的の店に向かう前にタイムベルに顔を出した俺は、現れた間宮の姿を見て固まっていた。
丈の短い白いニットのワンピースに、少しヒールの高いパンプスを履いた間宮は、その…… なんというか……
「ねえ、イクト君? 今日のセリ、可愛いいでしょ!」
まあ、サオリさんが言う通りの感じで、普段の姿からは想像も出来ないほど大人っぽく見えた。
いくらか髪型も、普段と違う気がする。
「お姉ちゃん、やっぱりアタシには、こういうの無理……」
「何言ってるのよ、凄く似合ってるじゃない」
「でも、これ、短いよ…… 下にレギンス履いてく」
「デートにそんなの履いてってどうするのよっ!」
「で、デートじゃないもん!」
「ほら、もたもたしないっ!イクト君が待ってるわよっ!」
「でも……」
そのまま、押し問答は俺の存在を無視したままで三十分程続き、結局サオリさんが選んだ柄の七分のタイツみたいなヤツ、もといレギンスを間宮が身に付ける事で事なきを得た。
「お姉ちゃん、これ、編み柄でなんかエロくて嫌だ」
「何言ってるのよ、可愛いいじゃない」
「ほら、柊がエロい目で見てる」
見てねーから!
いいかげんにしろ、と言い掛けた刹那、俺はサオリさんの視線が、こちらに投げかけられている事に気が付いた。
それは、間宮に気取られまいと、必死に何かを…… いや、たぶん言いたいのは、これだけだ。
「セリを、お願いね」と。
当然、サオリさんは一昨日の樋山の事を知っているだろうし、それに対しての間宮の胸中も解っている筈なのだ。
俺は、静かに頷くと、納得いかなそうに自分の足元を睨みながら首を傾げる間宮に
「とりあえず、行こうぜ?」
と声を投げた。
目的の店は、駅前に向かう大通りと平行して延びる、大通りより少し狭い裏通りの傍らにあって、タイムベルからは歩いて十五分程で到着してしまった。
「ねぇ、柊、これって……」
「ああ、バイク屋」
「アンタ、乗れるの?」
「まあな」
「じゃあ、買い物って……」
「うん、中古だけどさ、アシが無いと不便だから、こっちに住み始める準備をしている時に、ついでに注文しておいたんだ」
「へぇー、ねぇ?どんなのを買ったの?」
「アレ」
俺が指をさした先に、夢中で間宮が視線を重ねる。
てゆうかコイツ、もしかしたら、こういうの好きなんだろうか。
だとしたら、ちょっと意外だな。
「ねぇ、あのハーレーみたいなヤツ?」
「ちがう、ちなみにそれはホンダだ、ホンダ」
「じゃあ、あの速そうなレーサーみたいなやつ?」
「それも違う」
「じゃあ、どれよ」
どうも伝わらないので、俺は注文したソレの場所に歩み寄り
「これ!」
と力強く指さした。