結界対者 第四章-3
「おい、俺達がサボッてるの、あいつらから丸見えだな」
「別に、いいわ。 気分が乗らないんだもの。 上の空で授業を聞いてたって、担当の教師を不愉快にさせるだけよ」
「なるほど、な」
今朝も、そんな感じだったのか、と言葉を続けそうになったが、それは止めた。
その代わりに、昨日から断片的に考えていた事を、ポツリポツリと並べてみる事にする。
「あのさ、間宮。俺、考えたんだけど、一度とりあえず思いっきり時間を戻してみたらどうだ?」
「何よ…… いきなり」
「いや、なんとなくさ。樋山さんが居た二日前位に……」
「無理よ」
「……?」
「刻転で戻せる時間はせいぜい一時間だし、たとえそれが出来たとしても、消えた人間は消えたまんま。それに……」
「それに?」
「もう、アイツの事はどうでもいい」
どうでも、ねぇ……
とてもそんな風には見えないが、かと言ってそれを指摘する気にも更々なれない。
だから、この話題はもう当分止めようとも思う。
「なあ間宮、オマエ連休はどうするんだ?」
「連休?」
「ああ、明日から、ゴールデンウィークだぜ?」
「そうだっけ……」
「そうだ」
安易過ぎる話題の変方に、我ながら「おいおい」と突っ込みを入れてやりたくなる。
しかし、向き直った間宮が、意外にも普通の表情で
「アタシは店の手伝いくらいしか用事が無いけど、アンタは?」
と返して来たので
「あ、用事はあるかなぁ……」
組み立て損ねた帆船模型の様な返事をしてしまった。
ちなみに、用事があるというのは事実で、この街で暮らし始める準備をしていた頃に注文をしていたモノが、無事に店先に入荷したというので、受取りにいかなければならないのだ。
本当は一週間程前に、店からは入荷の連絡を貰っていたが、放課後は連日間宮に連れ回されていたり、休日は色々と身の回りの事に時間を奪われていたので、完全に行きそびれていた。
「用事って何よ」
「ん、ああ…… 買い物みたいなもんかな」
「買い物? ふうん、買い物ねぇ…… まあ、いいわ! 仕方がないから、付き合ってあげるわよ!」
「はぁ!?」
「何よ、不満な訳?」
「い、いや、別に……」
目の前で、いつもの様に間宮がニヤリと笑う。
今朝は遅刻した上に、ついさっきまで欝々としていた癖に、普通にニヤニヤと笑っている。
思わず、「何だ、ショックで落ち込んでるのかと思ったぜ」と言い掛けたが、間宮が不意に空を見上げながら呟いたのを聴いて、やっぱりやめた。
「今のアタシには、気分転換が必要なのよ」