結界対者 第四章-2
「あのさ、間宮は来てる?」
「ん…… ? ああ、そうか、セリは今日遅れて来たから、朝は一緒じゃなかったのね。うんうん、来てるわよ! 一限目の終わりに来た。 少し元気が無かったみたいだけど、体の調子が悪い様でも無さそうだったし……」
「……そう」
「あ! もしかして、喧嘩でもしちゃった?」
そんな平和的な理由なら、寧ろ望ましい位だ。
俺は無理矢理笑みを浮かべながら「違う違う」と鼻先で手を振った後で
「ごめん、呼んで貰えるかな」
と返した。
「ちょっと待って、ね?」
言いながら春日さんは、教室の中へと一時消える。
そして、すぐに戻って来ると
「ごめん、居ないみたい」
と、首を傾げた。
「ああ、そうか。何処に行ったんだろうなぁ」
「うーん、もしかすると、屋上かなぁ」
「屋上?」
「うん、屋上」
そう言えば、初めて間宮と出会ったのも、屋上だったな。
「ありがとう、ちょっと行ってみる」
「うん、それと……」
「……?」
「出来たらで良いから、セリが何で元気が無いのか、教えてくれると助かる」
「ああ、心配?」
「うん、そうなんだけどね。あの子、なかなか話してくれないからさ」
いい友達だ、と改めて思う。
間宮はもっと、春日さんを大切にするべきだ。こんなに思いやりのある娘は、中々居ないぜ?
俺は「ありがとう、わかった」と短く告げながら、間宮のクラスを後にした。
階段を昇る俺の耳に、始業のベルが遠く響く。
少しだけ、教室に戻ろうかとも思ったが、今更どうでもよくなって、そのまま階段を昇る事にした。
なんとなく、間宮が居るという確信みたいなものを感じていたし、別に居なかったら居なかったで、少し屋上でのんびりと過ごすのも悪くはないと思っていたから。
なんだかんだ言っても、俺自身も結構今回の事で気が滅入ってたりするのだ。
やがて、途切れた階段の先の扉を開け、爪先から踏み出すと、眩しい青空が目の前の全てに広がった。
なるほど、五月晴れとは良く言ったものだと、ぼんやりと思い浮かべながら、その下のコンクリートの四角い地平を見渡す。
そして、彼方のフェンスに、もたれながら佇む小さな背中を見つけた俺は、ゆっくりと近付くと驚かせぬ様に静かに声を掛けた。
「よう」
「……っ? 柊っ?」
ビクリと振り返るから、完全に気遣いは無駄だったと、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「なあ、何やってんだ?」
「別に。 アンタこそ、何やってんのよ」
「ん、別に」
間宮の隣で、同じようにフェンスにもたれると、俺達の足元の校庭で体育の授業が始まっているのが見えた。
白く光る幾つものシャツがクルクルと校庭を周り、それが妙に滑稽に思えてしまった俺は、思わず吹き出しながら間宮に言う。