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結界対者
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結界対者 第四章-19

『イクト君、先ほども言ったが時間があまりないんだ。私は、楽箱での失態の一件で、恥ずかしながら実体を失ってしまってね。こうして、元の姿で現れたり、君に語りかける事が出来るのも呪術の応用によるもの、僅かの間でしかない』
「実体を…… ですか?」
『ああ。今、君が見ている私は、残像に近い幻影の様な物だ。身から出た錆というヤツでね、仕方が無いと思ってるよ。まあ、ガーゴイルの姿でなら多少は長く存在出来るが』

やはり、間宮の言っていた通り、か。
あの海のガーゴイルは、樋山そのものだったのだ。

『では、手短に話そう。』
「え? あ、はい」

樋山は言うと、俺を屋上の縁に導いた。
そこから見下ろした場所には、例の焼却炉があって、大勢の警官がそいつを青いビニールシートで囲みながら、何か作業をしている。

『判るかい? イクト君。 あの焼却炉は、構造的に、外部から人間を押し込むのは無理だ』
「ええ」
『私の元に居た場所、ジルベルトのマニュアルに、瞬間移動のプロセスがあってね、殺された男は、おそらくソレを使われたと思う』
「えっ?」
『そして、それは、セリに対しても同じだ』「そ、そんな! じゃあ、間宮も殺され……」
『それは無い! セリは違う場所に移されただけだと思う。そこは、おそらくジルベルトの……』
「樋山さん!」
『……?』
「それだけ解ってて、どうして助けてくれなかったんです!」
『……すまない、イクト君。今の姿の私では見守る事は出来ても、異常を察知して直接行動をしたりする事は無理なのだ。いって、ガーゴイルの姿で現れる訳にもいかない。
だから、とにかく今は聞いて欲しい!
セリは突然消えた、しかし教室の全ては、生徒が一人消えたのにも関わらず平然としていた。こいつは、セリの身近で、日頃のセリの行動を良く知る人間にしか出来ない芸当だが、何かカモフラージュの様な術を段階的に使用したと思われる』

あ……

-―――「セリ? 朝のホームルームが終わったら、教室から出ていったみたいだけど…… ねぇ?」
「うん、まあ、間宮さんは、いつもあんな感じだからさ」――-

カモフラージュ、その結果が春日さんと友達の、あの言葉か。

『しかし、そのカモフラージュを施しきれない部分が在った』
「バカ本、ですか?」
『バカ本? ……まあいい、殺されたあの教師だ』
「ええ、ヤツに話を聞いて、俺は間宮を探し始めたんですから…… だからって、殺すなんて」
『私が言うのもなんだが、ジルベルトとはそういう組織さ。
それより、あの時、あの教室に居た筈の、術者を探すんだ! そいつが、全てを知っている!』
「さ…… 探すって」
『あそこには、まだセリの持ち物が残っているし、何かしら手掛りが残っているかもしれない。
おそらく、数分後に緊急の全校集会が講堂で行われる。その隙に……』

その時、懸命に語る樋山の声が微かに薄れた気がした、かと思えば目前の樋山の姿が足元から透き通る様に消えて行く。そして

『すまない、時間切れの様だ…… このまま私は、セリを探しに行く。イクト君、頼ん……』

言い置いたまま、完全に、消えた。


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