結界対者 第四章-18
普通に、死んだんじゃないな……
この異常な事態が、それを予感させる。
そして、廊下の彼方から聞こえて来た微かな声で、予感は確信に変わった。
「おい、焼却炉の中から死体が出たらしいってさ!」
「マジで? それでパトカー来てんの?」
「ヤバくね?殺人事件とか……」
「で、誰だったの? それ」
「先生だって、ほら、山本先生!」
バカ本が死んだ……?
バカな、ついさっき、今朝方話をしたばかりだぞ?
しかも、焼却炉の中って!
どこの学校もそうである様に、ウチの学校にもゴミを燃やす為の焼却炉がある。
が、しかし、それには小窓程度の投入口と、それより更に小さな灰を掻き出す為の扉があるだけで、バカ本の様な体格の大きな人間を中に入れるなんて、到底無理だ。
待てよ? だとしたら、どうやってバカ本は発見された?
本来なら入れない筈の場所に入ったんだ、誰かに見付けられない限りは……
『投入口からね、右腕と首が出ていたそうだ。まるで、助けを求めるかの様にね』
不意に、頭の中に声が響く。
それは、まるで……
そう、あの間宮と行った、海で聞いた
「樋山…… さん?」
あの声だ、あの助けてくれた声が再び、この耳に聞こえている!
『聞こえるかい? イクト君!』
「樋山さん? これって……」
『悪いが時間が無い、屋上まで来れるか?』
耳に聴こえているのではない、頭の中に声が直接響いている。
確か俺は、あの海でもコレを経験した。
その筈なのに、二度目の筈なのに、あまりにも奇妙な感覚に、思わず体を固めてしまう。
『早く、早く屋上へ!』
先ほどより強く声が響き、そいつに弾き飛ばされる様に、俺は走り始めた。何故だか解らない、ただ屋上へ行かなければならない。
階段を駆け上がる、幾度も踊り場で足を滑らせ、よろめきながら更に駆け上がり、やがて辿り着いた鋼鉄の扉を夢中で押し開ける。
と、そこには
『やっと逢えたね』
いつぞやの白い背広姿の樋山が、微笑みながら静かに佇んでいた。
「樋山さん、一体これは……」
『すまない、驚かせたね』
「いえ……」
樋山、生きていたのか。
しかし何故、声は相変わらず、頭の中に聴こえて来るんだ?