結界対者 第四章-11
「ちょ…… サオリさん、どうしたんです!?」
慌ながら声を掛け、その緊張の狭間に割って入る。
しかし、サオリさんは姿勢を崩す事無く、対する二人が後に退きながら
「では、よい返事を期待させて頂きましょう」
と軽く頭を頭を下げるまで、そのままだった。
そして、その場から二人が離れるや否や、踵を返し店の中に戻ると、何やら容れモノを抱えてすぐに戻って来て、そのまま中身を鷲掴みにして店の前へと振り撒き始める。
「お…… お姉ちゃん、何やってるの?」
今度は間宮が問掛け、その声にようやくサオリさんは我に返った様に
「あ、あら、おかえりなさい」
目を丸くしながら、言葉を返した。
「おかえりなさい、じゃないわよ! 一体何をやっているのっ!」
「え? ああ、これ? 決まってるじゃない、塩を撒いてるのよ」
「塩って…… どうしたの? さっきの奴ら、何者?」
ジルベルトだ。
しかし何故、奴らが此処に……
「あいつらね、教材の押し売りなのよ。ほらセリ、あなたは来年受験でしょ? あいつら、何かでそれを調べて、わざわざ店の暇な時間を狙って来たらしいんだけど、あんまり失礼な事を言うものだから、ついカッとなっちゃって」
嘘だ。
何故、嘘を言う必要がある?
サオリさん、アンタ、ジルベルトの連中と何があった? 何を言われた?
「嘘ね」
「……セリ?」
「お姉ちゃん、嘘をついてる」
「なんで? どうしてそう思うの?」
「いつも言ってるじゃない。アタシ、なんとなく色々な事が判る時があるの。 今のアイツら、誰だか良く判らないけど、お姉ちゃんが嘘をついてるのは判る」
言われて、サオリさんの挙動がピタリと止まる。
そういえば今日、出掛ける前にも、間宮は同じ様な事を言っていた。
『よく解らないけどさ、対者を始めからアタシ、こういう事って結構あるのよ。たまにお姉ちゃんの事も、解る時がある。ふふっ、力の副作用みたいなものかしらね』
沈黙は暫く、俺が何かフォローをしようと口を開こうとした直後に、サオリさんの意外な一言によって破られた。
「ごめんね、そうだったわね」
「……お姉ちゃん?」
「お姉ちゃん、嘘をついちゃった。でもねセリ、アイツらの事は気にしないで欲しいの。アナタには本当に関係の無い事だから」
言われて、間宮が黙り、再び沈黙が生まれる。しかしそれは長くは続かず
「解った、お姉ちゃんが言うなら」
と、無理矢理微笑んだ間宮によって終り、その場には俺の声にならない疑念の叫びだけが残った。
サオリさん、一体何を……