FULL MOON act2-1
「!」
彼は私のスカートをめくる。
「な、何?やめてください…」
彼は私の後ろにいたから、手の動きが分からなかった。
その手は止まらない。
「制服姿ってそそるよね。邪魔な手だなぁ。またこの間みたいに縛って欲しいの?」
「…そんな」
ほら、もっとおしりをつきだして、と彼は私の上半身を机に押し付ける。
そうすると、自然におしりが彼に突き出る形になるのだ。
彼の暖かい息がパンツ越しに感じられる。
「あ、やだ、そんなとこ、やぁぁ!」
「……なんで?いい匂いするよ」
「しません…」
だめだ。流される。
私は、机に頬をおしつけて冷静さを保とうと虚しい努力をする。
ひんやり。
一週間。
あれから一週間がたった。
私は、あの日以来行っていないバイトへむかう。
大きく深呼吸。
「おはようございまーす!」
私のバイト先は、都心の近くにあるチェーンでもないけれど何店舗か系列が出ているカフェ。
そんなに店自体は広くないし、仲間もいい人たちばかりで、
ここなら悩みも吹き飛ぶ唯一の場所…だったんだけど。
この間の出来事が頭に浮かぶ。
『だめだよ…』
…彼の囁く甘い声。
あぁ。…モヤモヤしてる。
「安西さーん!久しぶりー!」
転じて、明るい元気な声が聞こえた。
私はハッと我に返り、声を出した主へと振り返る。
岡田絵里、年下の可愛い女の子だ。嬉しそうに、尻尾でもついていたらブンブンふっているようだ。
まぶしい笑顔を私に向けた。
「えりちゃん!久々だねー」
私も彼女に満面の笑みをむけ、ハイタッチ。
何事にも嬉しそうに接する彼女は、ここでは元気の源だ。
雑談を交わしたあと、周りを見渡す。
二人でグラス磨き。お客さんはひとりだけだ。
「…あれ?今日は高坂さんいないの?」
…社員はこの時間帯は二人はいるはず。
「あ!今日はね、高坂さん休みなんだって〜残念だよね…」
えりちゃんは悲しそうにうつむく。私は安心したのか残念なのかよくわからない複雑な気持ちに襲われた。
悟られないようにギュッとコブシを握る。爪がくいこむ。
「ねぇ?そういえば、安西さんこのあいだすごく酔ってたけど、彼氏となんかあったの?」
「あ…」
本日二度目の深呼吸を分からない程度にする。
大丈夫。彼氏と別れたくらい、この年になったら日常茶飯事だ。
心配されたくない。
「…うん、別れちゃった」
「え〜!やっぱりそうなんだー!」
「…えりちゃん知ってたの?」
「うん、高坂さんがね、このあいだ安西さん送ってったじゃん?で、帰り遅いから、問い詰めたんだ。
そしたら、『安西さん、彼氏と別れたみたいで飲みすぎてたから、介抱してた』って言ってたよー。
気付かなくてごめんね?」
「…え、あ!大丈夫だよ。言わなくてごめんねー。もー高坂さん言っちゃったの?
恥ずかしいな…」
つくり笑いに見えたのか、見抜かれたのか、私より若干小さい彼女は心配そうな顔をする。