FULL MOON act2-3
「…」
彼の終始優しかった指を思い出す。簡単。香りはこんなにも脳裏に強く焼き付いているのだ。
制服はあの夜のような短いスカートで、その中に左手を入れ、そろそろとパンツの上からあてる。
「…んっ…」
とっくにそこは塗れていた。くちゅ…。そう聞こえた気がした。
早く強い刺激が欲しくて、それを与えてくれる一点を人差し指と中指でグリグリとまわす。
「…ふっ……んん」
誰もいない店内なら声を出してもかまわないはずなのに、羞恥心からか彼のワイシャツを口に当てて声を
おさえる。
…私はバイト先で何をしているんだろう。けれど。
『すぐに入っちゃったね』
「…あ…ぁ」
そんな風に彼は私をいじめた。
その感覚を思い出すかのように私はパンツの横の隙間から指を二本突き立てる。
まだ充分に塗れていなくても、自分の指だ、どこを触れば快感を得られるか分かっている。
「はぁ…こ、高坂さ、ん…」
すばやく指を行き来させる。早く絶頂に…。はやく。
くちゅくちゅ…。音は次第に大きくなる。
「あ…ヤ、ヤバ…」
ガチャ、バタン!
「!?」
ドアがあいた音がした。もう鍵を閉めてあったから、先ほどの社員さんが忘れ物でもしたのだろうか。
「…ふぅ」
急いで手を抜いて、身なりを整える。まだ疼いているけれど、かまわずパンツを直した。
「わ、忘れ物ですか?…………どなた?」
入り口付近には、肩を上下に揺らした男性らしき人がたっている。
暗くてよくわからない。
「…あ。こんばんわ。ちょっと忘れ物をして…」
「………えっ。あぁ。そうなんですか…こんばんわ」
彼だ。目を凝らしてみると、普段私服を見たことがないだけであり、彼であった。
私服だからだろうか。なんとなくいつもより若くみえる。
「何忘れたんですか?」
「あ……………えっと、さ、財布」
「え!!財布?財布忘れたんですか?」
思わず私はふきだしてしまった。休日のはずなのに、財布がないなら今日一日どう過ごしていたのだろう。
恥ずかしそうに彼は下を向いた。
「…安西さん一人なの?結城さんは?」
「あ、終電があるとかで帰りましたよ」
「仕方ないなぁ…じゃあ、俺いるから着替えてきなよ」
「えっ?大丈夫ですよ。一人で帰れますよ」
「いや、でもこの店女の子一人にさせるのはちょっと危険だよ」
「……そ、そうですよね。」
振り向くと彼はすぐ後ろにいた。よく見ると、肩が微妙に濡れてる。
「…雨降ってるんですか?」
「…うん」
「…雨」
一瞬にして思い出す。
《わ!安西さん、びしょびしょ、どうしたの?》
《あ〜。そこで夕立にいきなりやられて》
《傘持ってなかったの?テレビで言ってたじゃん》
《私基本的に持ち歩かないんですよ。天気予報も見ないし》
《意外だね。いつも濡れながら帰るの?》
《大体。友達か彼氏がいればいれてもらいますけど》《ダメだなぁ》
その時、彼は、持っていたハンドタオルで私の頭をポンポンと拭いてくれたのだ
。
さすが、モテ男は一味違う。
私は嬉しさを隠しながらそう言った。
彼は、安西さんにだけだよ、と笑いながら言う。
口もうまいなぁ、そんなことを思いながら、とても嬉しかったのだ。
ハンドタオルは洗って返した。
…彼は覚えてるだろうか。