平和への道のり〜Prologue〜-4
夜の9時を過ぎる頃、通りは随分と閑散としてきた。
クルマはたまに通り過ぎる程度、人影はまばらになり、路上には物乞いが座っているくらいだ。
(やるなら良いタイミングだな)
その時、猛スピードで数台のクルマが南から走って来た。
「なんだ!ありゃあ…」
藤田はナイト・ビジョン・カメラのディスプレイを見つめる。
2台の白いベントレー・コルニッシュを数台の黒いメルセデスが囲むように走って来た。
一団はシュラトンの玄関前に横着けする。
素早くメルセデスのドアーが開くと迷彩服に身を包んだ屈強そうな男達が、サブ・マシーンガンを構えてベントレーの周りを囲んでいる。
「なんだ?あいつら」
藤田は思った。迷彩服を着たボディ・ガードにベントレーとは。
あれでは〈ここに重要人物が乗ってるぞ〉と、ヒット・マンに教えているようなものだ。
(イランもPLFもなってないな)
ベントレーから降りた人間が写る。間違いなく一人はアビルだ。
次の瞬間、藤田の耳に大音量の爆発音が響いた。
「なっ!!」
藤田はディスプレイを凝視する。辺りが白い煙に包まれていた。
2度、3度と爆発が続く。しかし、藤田はその状況をおかしいと思った。紛争などで使用されている爆弾は、その破壊力から地響きにも似た振動が身体を貫く。
だが、今の爆発からは全く振動が伝わってこなかった。
(撮影用の火薬か。これはひょっとして……)
藤田は喰い入るようにディスプレイを見つめる。
人々が叫びながら逃げまどう中、迷彩服はアビルとイラン軍高官の上から覆い被さり、2人を守っていた。
そのそばへ近寄る人影が見えた。
(あれは……物乞いの…)
頭からフードを被り、ボロ布のマントを着た物乞いは、静かにベントレーに近寄るとフードをとった。
(あ、あれは……女…?)
女は爆発音が続く中、ゆっくりと迷彩服に近づく。手には数本のダーツが握られていた。
女は次々とそれを迷彩服に刺していく。
彼らは一瞬、声を挙げて立ち上がろうとするが、すぐに意識を失い倒れていく。