冷たい情愛8 錯覚な交わり-6
物は、あくまで「物」でしかない。
しかし…そこには思い出や心がこもり…そこからただの物ではなくなって…
唯一の宝物になるものなのだ。
私にもそんな物が一つだけある…たった一冊の小説。
だから、このペンギンのぬいぐるみにも…同じものを感じ…
私はそっと、撫でてみた。
「それ…気に入りましたか?」
遠藤さんが言った。
「あ…ごめんなさい。大切な物なのに勝手に触ったりして…」
「ペンギン、好きなんですか?」
「はい。昔から好きで…」
「なら、貴方にあげます」
彼は静かに、一定のペースで話し続ける。
そして彼は…私の近くに寄ってきて、大きな腕で私を包み込む。
「貴方は何も変わっていない…」
変わっていない…?
彼は何と比べているの?
彼の体温を感じながら、私はその奥の大きな秘密めいたものを感じ不安になる。
それでも…私の前にいる彼は温かく…
彼と、一緒にいたいと思った。
私は彼のことを殆ど知らない…
不安が襲うのに、私はそこにいたいと願っていた。
続く