冷たい情愛7 side 芳-1
貴方は知らない…大人になりスーツに身を包み…俺の前で笑顔で立つ貴方を見て…
俺が、どんなに手を伸ばして捕まえたかったかを…
貴方は知らない。
その細く折れそうな手を掴んで…自分の元に強く引き寄せたかった。
・・・・・・・・・
貴方の体は…あまりにも弱々しく…
あの頃の面影が残る裸体に触れることだけで怖かった。
俺が触れることは…他の男と何ら変わりない快楽と安楽だけの行為で…
息を乱しきった後、裸のまま眠ってしまった貴方の体に…
赤い印をつけることしか出来なかった。
あの人を夢にまで想い呼ぶ貴方と…
そんな貴方と俺に…
次はあるのだろうか…
明日また…スーツに身を包んだ貴方は、そつなく大人に戻って…
あの頃と同じように…笑顔の中に、芯の強い心を覗かせ…俺と合い向かうのだろうか。
あの頃と同じように…あの人と同じように…
貴方を辱めながら愛情を与えたあの人のようになれぬなら…
せめて…快楽の顔を俺だけに見せて欲しかった。
・・・・・・・・・
俺は、彼女の手首を強く掴んだ。愛情はいらないなら…体だけでも…。
俺は、彼女を目の前にして…怖いほど感情的で冷静だった。
「痛いっ」彼女は言う。
俺は彼女を壁際まで追い込む。
メガネをはずす…余計な物を挟まず…貴方を見たかった。
唇が欲しかった…だから、俺は彼女の唇に自分のそれを重ねた。
彼女は誰を想い、俺の唇を受け入れているのだろうか…。
言うべきではない…のか?
口に出してしまったら…彼女は壊れてしまうのか。
しかし…言ってしまった。
彼女の苦しむ顔が見たいと思ってしまった。
「昨晩、寝ている間あなたは…人の名を呼んでいました」
彼女は微かに苦しい目をする。
そうなのか…まだ…あの人が貴方の中に存在するのか…