冷たい情愛7 side 紘子-1
遠藤さんは…私の手首を掴んだ。
それはあまりにも手加減のない力で…私はあまりの痛みに顔を歪ませた。
「痛いっ」
彼はそのまま私を壁際まで追い込む。私は背をぴったり壁に付けるしかない。
彼は私のすぐ前でメガネをはずす。
メガネ越しでも綺麗な目が…直に私を見つめている。
唇を重ね合わせる。触れるだけ…そのままでいる私たち。
不思議だ…
怖い目をして…無口な彼の行為には…乱暴と一緒に優しさが混在している。
心が急に温かくなる。
唇だけでなく体も彼を感じる…彼と私はぴたりと接している。
幸せだった。愛されているという錯覚を起こしたからか…。
唇を離すと彼は小さく言った。
「昨晩、寝ている間あなたは…人の名を呼んでいました」
彼の部屋に初めて泊まった夜に、私は男の名でも呼んでしまったのか?
しかし、私には寝言にまで呟くような男の存在は居ない…
私は自分の愚かさに呆れてしまった。
もしや私は…
幼かった自分の前からいなくなった男の名前を…まだ未練がましく呼んでいたのか…
夢に出てきた…過去のあの人…
彼はそれ以上何も言わなかった。
「シャワー浴びたらどうですか?」
彼の促す言葉で私はシャワーを浴びに行った。
熱めの湯を体に浴びせる。私は頭を切り替えたかった。
ふと自分の手首を見た。ついさっきまで、彼が強く握っていたそこ…
ずっと昔には、大好きだったあの人が縛りつけていたそこ…
遠藤さんに惹かれているのは、もしかしたら…かつての人と似たような言葉を吐き…
かつての人と似たような行為をするからだろうか…