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いじっぱりの泣き虫
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いじっぱりの泣き虫-1

 最初からわかってたんだ、あなたが優しいから一緒に居てくれるってこと。
 あなたが描く絵が、いつも私の目標だった。
 私もそんなふうに透き通った、素直な子になりたいって。
 …例えば、私の親友みたいに。
 可愛くてドジで、でもヤル時はちゃんとできて。お花みたいってセリフがよく似合うあのコ。
 あなたがあのコを可愛いって言う度、私は笑顔で同意しながら痛い気持ちを必死に隠してた。
 わかってる、こうなることを予想出来てるのに、話題にしちゃう私が悪いんだってことぐらい。
 でも、私たち、付き合ってるんだよ?そんなに褒めないでよ。私が強がりなの、ちっちゃい頃から一緒にいるあなたなら充分知ってるでしょ?そのくせ、すぐにヘタって誰かに寄っ掛かんなきゃいけなくなって、でもその誰かってあなたしか居ないから、あなたに抱きついて泣かなきゃ元気になれないって。

 ……やっぱり無理だったんだね。私をあなたのキャンバスに描いてもらうのは。
 こんなに自分の弱さを主張したいだなんて。あなたに知ってもらって、慰めてほしいだなんて。
 こんなに卑しい私の性分。
 やっぱり、あんな綺麗な感性を持ってるあなたの傍に居たら、ダメなんだよね。あなたを、私の汚いエゴに曝したら、傷ついちゃうから。
 涙が溢れて、どうしようもなかった。胸が苦しくて、流れ続ける涙を拭う気力も無かった。
 誰も来てくれない。だって、お話の中みたいに都合よくあなたが来る事なんて有り得ないんだから。

 ねぇ、ゆーま。私、いま泣いてるんだよ?
 私がつらい時は、いつでも胸貸してくれるって言ったよね。俺の気持ちとか迷惑とか気にしないで、ただ泣けばいいって言ってくれたよね?
 なのに、なんで?なんでいないの?私は今傍にいて欲しいの。今あなたが必要なの。
 ……本当はイヤだった、あなたが留学するなんて。大学も違うのに、住んでる場所が海の向こうになってしまったら、ますます私は一人になる。
 電話くらい、私にだって出来るよ?メールも、いざとなれば手紙だってある。けど、それじゃ駄目なんだ。
 私が欲しいのはあなたの言葉でも気持ちでもない。
 ただあなたのぬくもりだった。
 ぎゅっと抱きしめて、優しく背中をさすって欲しかった。大丈夫だよって励まして欲しかった。
 いつからか、みんなを励ますのが私の役割だったから、私が甘えるなんて考えもしなかった。みんな、つらいから私の所に来る。なのに私が相談したら、いっぱいいっぱいの気持ちが、自分の気持ちだけを見なきゃいけないみんなが、私の事で悩んでしまう。そしたら意味が無いじゃない。
 そう思って頑張っていたら、溢れてしまったんだ。
 笑顔を見せられる友達はたくさんいた。でも泣き顔を見せられる友達はいなかった。だって、「強くてかっこいい」のが「私」、だったんだから。
 見せられるのはあなただけだったんだ。ううん、あなたがよかったんだ。
 だってあなたは心配も驚きもしないで、黙って私を受け入れてくれる。いつもの私になるように頑張ったりしない。私が求めているものをちゃんとわかって、それだけを私にくれた。
 迷惑になったかな。そう思って次の日謝ったら、あなたは怒ったよね。俺は葵に謝って欲しくて昨日ああしたんじゃない、葵が少しでも楽になればいいと思って自分から抱きしめたんだ。俺が謝る理由はあってもおまえにはない、って。
 嬉しかった。いつもは言えない「ありがとう」も、その日はちゃんと言えた。
 帰り際、ひたいにキスされた。あなたがいつの間に私より大きくなっていた事に、その時初めて気がついた。恥ずかしいのと悔しいのが交じり合って思わずばかっ、って言ったら、あなたは優しくごめん、って言った。

 あの一言があなたが海外に行かせる事になるだなんて、あの時の私には想像も出来なかった。
 あなたは、私に他に好きな人がいるって勘違いしたんだって?赤くなってちょっと怒ったのは、普通恥ずかしがってるからだって思わない?なんでそんな事考えたんだろ。何年も前から、もしかしたら初めて会った時から、私にはあなたしか見えていないのに。
 他人の気持ちには敏感なのに、自分の事となるとさっぱりなんだから。
 私たちは当たり前のように一緒に居過ぎた。だからお互いの思いに気付かなかったんだよ。
 私だってあなたが優しいから一緒にいれてくれてるって、わがままな私に付き合ってくれてるだけだって思ってたんだよ?
 でももう迷わない。あなたの気持ちなんて関係ない。惰性で付き合っていたなんて、死んでも言わないし言わせないから。
 一人で泣くのはやめよう。泣くなら、あなたの前だけにしよう。そして、好きだってちゃんと伝えよう。
 素直じゃなくたって、綺麗じゃなくたって、私の気持ちは本物。打算とか利用とかあっても、本物だから。
 今はそれでも、いいんじゃないかな?


 空港のロビー。今日はあなたが帰って来る日。
 おかえり、の言葉の後に、今日久々に思い出した昔の事を話そう。
 まだ不器用だった頃の、私たちの話を。
 幼くって、愛してる事に気付いていなかったあの頃の話を。


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