飃の啼く…第15章-11
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「おーい、さくらー!」
「あ、おじいちゃん!」
孫の姿を見つけて、こちらへ歩いてくる着物姿の老人。彼がさくらの祖父、利三郎だろう。
「この度は…」
言って、頭を下げる飃を、彼は少し胡散臭そうに見た。
「あんたの顔は見覚えが無いが…その長い髪、それにその妙なネクタイの結び目は…人間じゃないな。狗族かね?」
「左様です。」
利三郎の足元にまとわり着いていた小さなさくらが言った。
「おじいちゃんおじいちゃん、この人もパパとママがいないんだって!なのに寂しくないんだって!偉いね!」
いかめしい顔の老人が、とたんに破顔する。
「そうだな、さくら。ささ、お前はもう少し遊んでおいで。爺さんはこの人と話があるからな。」
はーい!と、さくらは再び池のふちに陣取って、絵を描き始めた。そんなさくらを見ながら
「あの子は芯の強い子じゃ。わしの前では決して涙を見せん…ところで…」
鋭い眼光が、飃の目を捉える。
「あんたのことをお聞かせ願おうか。もちろん、本当のところをだ。」
飃は、人のいない部屋―となると必然的にさくらの部屋―で、利三郎に全てを説明した。包み隠さず。本当のことを。娘の結婚と、その死に直面し、もはや驚くこともなくなった老人は、こんな突拍子のない話の全てを信じて受け入れることに何の抵抗もないようだった。
「で、わしの孫はあんたら狗族にかかずらわって、危ない目にあっとるわけじゃな。」
違うとはとてもいえない。言おうとも思わなかった。
「はい…。」
飃は、老人の前に頭を下げた状態で全てを話した。
「顔をおあげなさい、お若いの。」
老人の声が優しくなる。
「娘があのへんな男を…失礼、とにかくつれて来た時に、わしは猛烈に反対した。娘は身体が弱くてな…さくらには言わないつもりじゃが、出産すら出来るか危うい状態じゃった…だが娘はもう決めたというんじゃよ。この人の子供を生んで、化け物と戦うための武器を作るだなどと…正直勘当も考えた。」
ふう。と、老人のため息が震えた。