The Hint Of The Storm-9
疲れ果てて、情けなく座り込んで…森はいつもと変わらない静けさを取り戻した。
「・・・?」
その時…
聞き覚えのある、音が…あれは…
「擾…の、笛…?」
音をたどる。僕を呼んでいる。
無意識のうちにたどり着いてしまったそこは、村を見渡せる位置にある、切り立ったがけの上だった。擾の姿を確認する前に、村を見下ろす。明かりがともり、みんなが何か慌ただしく動き回っている。僕がいようといまいと変わることなく。
不意に、足音がして振り向いた。
「2分04秒。さっすがはオレの愛犬だなァ、七番…」
「擾…!」
月の光を反射して、擾の眼窩に収まる白目だけの目が光った。
「おいおい…数ヶ月かそこら他の犬たちと暮らしたら、もうオレのことは呼び捨てかァ?そいつはねえぜェ…」
面白そうに顔が歪む。右手は、鞭を握りたがっているようにひくひく動いた。
「死んだ…はずじゃあ…?」
獣じみた笑い声が、忘れかけていた服従の日々の記憶を呼び起こす。
恐怖の記憶を。
「死んだ?死んだだと?澱みが?…傑作だぜ…まあ、確かに、あのクソねずみとやりあった身体は消えた…。」
「どういうこと…ですか。」
擾は、クックと笑うと、言った。
「こういうことさァ…」
そして、腰に手を伸ばす。鞭を使うのかと一瞬身構えたけど、擾が手に取ったのはナイフだった。予告も、ためらいもなしに、自らの腕を肩からずぶりと切り落とす。ぼと、と落ちた腕は奇妙な角度に曲がっていた。そして…腕の切断面からどろどろとした液体が噴出し、次第に膨張していった。同じように、擾の肩の切り口からも液体が出てきて、次第に腕の形を作っていく。見る見るうちに…二人目の擾が誕生した。