The Hint Of The Storm-15
「違うね、七番。俺たちはもうお前に用は無い…。」
「ああ…お前の…生気に用があるんだ。」
「僕の…生気?」
骨まで凍らせるような悪寒が、腕から足の先まで駆け下りた。一度だけ見たことがある光景。獄とかいう人間の管理している牢獄の独房に入れられた一人の狗族。拷問によって衰弱した彼に群がる何匹もの…澱みの首領が『吾が子』と呼ぶ小虫が群がって、次第に成長していく様を。
若葉を捕まえているほうの擾が、僕を見る。
「絶望と憎しみに、心が真っ黒になっちまった狗族の…」
「ああ…そんな狗族の生気…たまんねェなあ…。」
擾が、ナイフを掲げる。月光に光るその刃は、ろくに手入れもしていないせいで錆びていた。そして、その刃が狙うのは僕じゃない。
若葉の目が恐怖に見開く。
「―…!!」
全てが、ゆっくりと、動きを止める。
若葉の喉をめがけて伸びるナイフ。
舌なめずりしている擾に捕らえられ、目をつぶる若葉。
そして、自分の腕を切り落とされたことにも気づいていない、擾の笑い顔。
そして全てが、再び動き出す。
「な…!?」
ぼとりと落ちた自分の腕を、間の抜けた顔で見つめる擾。その首を、僕の鎌が捕らえる一瞬前に、若葉が目を閉じているのを確認した。
確かな手ごたえと共に、擾の首が飛び、鎌は迷わず、もう一人の擾へ向かった。
喚く暇も与えずに、頭を斜めに斬り上げる。若葉は、擾と一緒にその場にくず折れた。体液の水溜りが、べチャッという嫌な音を立てる。
稲光に、雷鳴が追いつくことが出来ないように、その一瞬の僕の鎌の動きを追える者はいなかっただろう。夕雷の言っていたことがわかった。
―雷になる…。こういうことなんだ。
再び手に舞い戻った鎌は、いつもよりほんの少し、僕の手になじんだ。