てくてく-4
もの凄い騒音。頭上には都市高速が巨大な橋のように遥か先まで連なっている。その真下の道路を、大型トラックが駆け抜ける。
ここは電車から一瞬見える風景。
初菜の眼には、いつも蛍光色のシャツやジャンパーを着た人が立っている事だけ確認出来ていたが、何故だか分かった。
片側1車線の狭い道路に、わずか1メートルにも満たない歩道がスクール・ゾーンとなっている。この近くに学校が有るのだ。
この歩道を子供達は歩くのだろう。車やトラックがかなりの速度で行き交う。
彼女が小学校の頃は、農道を歩いて行っていたので車に出くわすなどほとんど無かった。
(こんな場所に学校がねぇ…)
初菜は注意深く狭い歩道を東に歩いた。
歩道の先の十字路に差し掛かる。先ほど見た線路の進行方向から、初菜は右に曲がる。
坂になった橋を渡ると、神社や集落以外、見渡せるほどの田園が続く。
(うわぁ!)
いつもは流れる景色として見ている遠くまで続く黄金色を目のあたりにして、初菜は感嘆の声を挙げる。
田園の真ん中を蛇行して、昔ながらの川が流れていた。
(キレイ…)
川沿いの道を進みながら、初菜は田んぼを眺める。
収穫近くとあって水を止められた稲は風になびいて黄金色の波のように見える。
畦道は草の緑に混じって彼岸花の紅や水仙の白が映える。
初菜は風景を見ているうちに自然と微笑んでいた。
田園の続く道を過ぎると、家々が増えてくる。その先は彼女も通った小学校だ。
その手前に川の堰が有る。
(あれは…白鳥?)
初菜が見たのは白サギだった。堰の浅瀬に立って微動だにせず眼を凝らしている。
初菜はサギを良く見ようと、ガード・レールを掴かむと身を乗り出した。
サギは動かない。初菜はツバを飲み込んだ。
その瞬間、サギは首だけを素早く水面につけると小魚をくわえていた。
(凄い、凄い!)
思わず手を叩く初菜。
その音が聴こえたのだろうか、サギは小魚を飲み込むと何処へ飛んで行ってしまった。
(あ〜あ、行っちゃった…)
しばらくサギの飛んで行った方向を眺めていたが、再び歩き出す。
小学校は昼休みなのか、運動場にはたくさんの子供達が楽しげに声を発して遊んでいる。
屈託の無い笑顔と笑い声。
それを眺める初菜は、懐かしさとうらやましさで自然と顔がほころんでいた。
歩き続けて2時間が過ぎた。
初菜のふくらはぎや踵はだるさとジンジンとした痛みが伴う。
(何で私、歩いてんだろう……)
それでも歩みは止まらない。もはや、意思から離れて足が勝手に動いてるような感覚だった。