てくてく-3
「ま、まだ続くの……」
先の見えない坂道。うす雲は消え失せ、季節外れの強い陽射しがふり注ぐ。
最初の勢いはどこえやら、後悔が先にたつ。
初菜は首にタオルを掛けると、流れる汗を拭いた。
(あれっ?)
ブラインドの右カーブを曲がったところで初菜は不思議なモノを見た。スーパーだ。
(何でこんな山の中にスーパーが?)
だが、その先を見て納得した。スーパーの横に大きな道が作られ、丘の上には数棟のマンションが立ち並んでいたのだ。
(こんな丘に……)
初菜は丘にそびえる建築物を眺めながら、スーパーへと近寄った。
心地よい冷気が身体を包み込む。ちょうど昼時のためか、女性に混じって作業服姿の男性が弁当を買っていた。
初菜もジュースと焼きそばパンを買うと、表にあるベンチに腰掛けて袋を広げる。
焼きそばパン。
学校の購買でもしょっちゅう買うほど初菜の好物。ラップに包まれたそれを彼女は笑みを浮かべて剥がし、一口食べた。
(学校のとは違うけど美味しい)
初菜は満足気にふた口目を頬張り、ジュースを飲む。
ふと左手を見る。
ベージュのシャツ、茶色の半ズボンにサンダル。歳は60過ぎだろうか、白髪の男性がビール片手に弁当を食べている。
その顔は仏頂面で睨むような目付きだ。時折ブツブツと独り言を言っている。
スーパーで買物を済ませた客はベンチに座る2人を見ると、すぐに視線を外して去っていく。
(私も変に見られてるのかな…)
気持ちが萎える初菜。まるで自分が周りの流れから置いていかれているように。
彼女は食べ終わると、再び歩き出した。先ほどよりもしっかりとした足取りで。
坂道がなだらかになっていく。丘の頂上が近いのだろう。
「うわぁ!凄い」
思わず口から声が漏れる。それは丘を登り切ったあたり、道が開けた場所での事だ。
右手に大きな池が広がる。
(丘の上に池が有るなんて…)
それは貯水池だった。かなり昔に作られたようで、水際はすべて土で、その周辺を桜の木が囲っている。水面に木々が写っている。おそらく桜の季節なら素晴らしい光景だろうと初菜は思った。
池の西側は森だった名残をとどめ、様々な雑木林が辺りを覆い、その上にはマンションが立っている。
何とも奇妙なコントラスト。
そこからは下り坂が延々と続いている。初菜は軽くなった足取りで貯水池を後にした。