てくてく-2
「アナタ!髪、染めてるじゃないの!」
「はぁ?」
いきなりの論点の変わりようと的外れな言葉に、初菜は呆れかえった。
もちろん彼女には覚えが無い。いいがかりも甚だしい。
「イエ、染めてません」
こみ挙げる怒りを、努めて抑えて答える初菜。しかし、女性教師は声を荒げると、
「ウソ言いなさい!染めてるじゃないの」
その瞬間、初菜の怒りはピークに達した。
彼女は親指と人差し指で髪をひと摘み握ると、一気に引き抜いた。
〈ブチ、ブチッ〉と髪がちぎれる音と共に頭に痛みが走る。
女性教師は一連の動作に目を丸くし、口を半開きにして見入っている。
初菜は握っていた髪の毛を女性教師の右手に渡すと、震える唇で答えた。
「だったら調べて下さい…染めているかどうか…」
それだけ言うと、下足箱から校門へと向かった。
残された女性教師は、遠ざかる初菜の姿を黙って眺めていた。
初菜は駅へと走る。すでに発車の時刻だが、時々遅れたりする。
海岸線に沿った線路は、風が強過ぎると砂に埋まり運行不能になるためだ。
しかし、初菜の望みも虚しく、電車は定刻に発車していた。
「次は……!」
初菜は改札横の時刻表を見つめて絶句した。次の電車まで2時間以上有るのだ。
彼女が学校に通う路線はかなりのローカル線のため、平日、朝夕のラッシュ時以外は極端に本数が少ないのだった。
(他は……?)
彼女は本数の多い別の路線の時刻表を見た。が、諦めた。その路線だとかなり自宅までを迂回したうえ、バスを乗り継ぐ必要があり、2時間近く掛かってしまう。
(それもこれもアイツのせいだ!)
再び怒りがぶり返す。
その時だ。初菜はいつもなら考えつかない結論に達した。
(仕方ない!歩いて帰るか)
そこから初菜は踵を返すと、歩き出したのだった。