キャンディーガール-4
翌朝。
電車の中で俺は独り、ニヤけていた。
いつもの通学時間。
たくさんの人が不気味がってもかまわない。
俺は今、昨日敦志が語った彼女のロリータファッションを変える方法を、瞼の裏で描いている。
何度も何度もイメージした光景・・・・。
放課後の街を歩く二人。
俺と彼女の制服デート。
買い物をして服選び。
手に取るのは、レースはなくてもカワイイ服。
『いいね!』
『似合いそうだよ!』
褒めちぎり、最後はカッコよく『俺のために着て欲しい』と決める。
彼女は俺のことが好きだから、選んだ服を着る。
「カンペキ・・・」
想像して、またしても口元を緩めた。
普通を好み。
普通のデートを、普通の服を着た、とびっきりカワイイ彼女とする。
夢ではない近い未来に、俺は浮かれた。
駅に着き改札口を出ると、昨日の待ち合わせと同じ場所に、彼女はいた。
「典子ちゃん!」
歩みのスピードを早める。
「おはよう」
挨拶したが、返事はない。
昨日のことを怒っているようだ。
俺は顔色をうかがいながら、謝った。
「昨日はごめん。勝手に帰って」
それでも暗い表情のまま。俯いてこっちを見ようとしない。
俺は戸惑いながらも、さっきのイメージを実行させることにした。
「昨日の埋め合わせは今日する。買い物に行こう。きっと典子ちゃんに似合う服が、たくさん・・・」
言い終える前に、彼女は首を振った。
「もぅいぃんです」
「へ?」
俺は右手を出しかけたまま、固まった。
「ぁたし、勘違いしてました」
「なに、を?」
「黒崎さんを好きだったこと、間違いだって」
「ちょっ・・・」
「昨日会ってみて、ゎかったんです」
「典子ちゃん?」
「黒崎さんは女の子のこと、全然ゎかってないです」
「聞いてる・・かな」
「あんな場所で取り残されたぁたしの気持ち、全然考えてくれてないじゃなぃですか!」
「あのぉ・・・」
「黒崎さんには幻滅です! こんなにもデリカシーがなくて、挙動不審で趣味もサイテーな人だったなんて思いませんでした。こんな人を好きだったなんて、恥ずかしぃですぅ!さよぅなら!!」
彼女は俺の話に耳も傾けず、言いたい事だけ吐き捨てて、背中を向けた。
歩く姿は早かった。
スタスタとした足取りは、すぐに見えなくなるほど早い。
俺の前を、冷たい風が通り過ぎた。
告白されて四日目。
デートはまだ一回。
イメージトレーニングまでしたのに実行されず。
数分前までの夢心地は何処へ?
普通をこよなく愛した俺の夢は?
さようならって、ナニ??
「ウソだろぉぉぉぉぉぉ―!!」
空しさから来る俺の叫びは、これまた空しく、駅で響いていたのだった。
おしまい。