哀楽怒喜-6
「もういいよ…」
「で、でも…」
「いいから…」
「………」
彼は私を直視せず、再び私の横に座った。
そして祈るように手を顔の前で組み、悩んだ顔で目を閉じた。
私は、喋らない。
彼は、喋れない。
きっとそれは悲しい事なのだろう。
紅い波が打ち寄せていた。
太陽は後少しで姿を隠す。
そして明日もいつもと変わらない太陽が昇り、ここに沈むだろう。
未来永劫の回帰。
人も、世界も、同じ。
それは今から起こる事も同じだ。
彼は、顔を上げた。
そして私の右手を上から被せるように握った。
目は、私を見ていた。
何かが、変わってしまった。
「それでも…それでも…」
波の音が消える。
「君の辛さは分からないけど…」
目の前には、彼が居た。
「僕はここに居ていいかな…」
未来永劫にすがっていたのも、歪んでいたのも私だった。
今日の夕日はいつもより少し長い。
紅い時は、もうしばらく続く。
泣き叫んだ声も、しばらくは止まない。
だが、それはきっと幸せな事なのだろう。