哀楽怒喜-4
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『怒』〜良き友人〜
私は今、長年の付き合いになる友人と居酒屋で飲んでいる。
近くに住んでいるのに久しく顔を合わせていなかったので、私が呼び出したのだ。
飲みながら、私は彼に愚痴を言っていた。
人と上手く付き合うには、怒りを抑え、とにかく波風を立てないようにすることだ。
上司の言う事は一旦飲み込み、どうしても譲れない箇所をやんわりと下手に出つつ訂正する。
部下を持てば、失敗を責める事はせず、それを糧にさせ、今後同じ失敗をしないようにと声をかける。
自分を傷つけない存在は誰でも嫌わないものだ。
とにかく怒る事を禁忌とした私は実際、それである程度世を渡って来た。
だが、ここ最近分かった事がある。
怒りというのは相手を傷つけるが、相手と自分を近づける手段でもあるのだ。
怒った時に出る素の表情、口調、態度、そして価値観。
自分が怒れば、相手は自分の事をより深く知る事になる。
そしてそれは相手と自分を繋ぐかけらとなるのだ。
だが、長年怒りを封印して来た私にとってそれらはもはや無縁の物だ。
私は怒りを忘れた。
何をしてもされても、ただニコニコと、争いを避けてきた。
争いの先にある真の繋がりに、私の手は届く事はないのだ。
私はただ、人を傷つけまいとしていただけなのに。
それなのに…それなのに…。
「何で私は怒りを感じないんだ!」
私はテーブルにコップを叩きつけた。
ちびちびと焼酎を飲みながら、静かに私の話を聞いていた友人は答えた。
「君、もう怒ってるよ」