ICHIZU…Last-1
ー朝ー
アラームにすぐに反応して目覚めた修は、ベッドから降りると大きく伸びをした。
「ンーーッ……」
カーテンを開ける。朝日はすでに高く登っていた。修は部屋を出て階段を降りるとキッチンへと廊下を辿る。
そこでは、母の加奈と父の建司が気忙しく朝食の準備をしていた。
「父さん、母さん、おはよう」
「おはよう、修」
修の挨拶に建司は挨拶を返す。が、加奈はいつも修に掛ける言葉を繰り返した。
「修。佳代を起こして来てちょうだい」
修は〈いつもの言葉〉に、嫌な顔をすると、ノロノロと今来た路を戻る。
いつものように姉の部屋のドアーを勢いよく開けて、いつものように怒鳴ろうとした時、
「姉ちゃん!おき…」
「起きてるよ……」
修は佳代の姿を不思議な物体でも見るようにマジマジと見た。
〈姉が起きている!〉彼の中で、ありえない出来事が目の前で起きていた。
驚きの表情そのままに佳代に近寄った修は、
「ね、姉ちゃん!どっか悪いのか?」
弟の問いかけに、佳代はゆっくりと顔を向けると、
「別に…どうもしない…」
そう言ってベッドから起きて、修を置いて部屋を出て行ってしまった。
身体が痺れて動かないが如く、修は動けずに佳代の姿を目だけで追っていた。
劇的なサヨナラ負けから3日、佳代は眠れぬ夜を過ごしていた。初めての体験だった。
家族と一緒の間は、試合の事が話題に挙がってもガマン出来る。
だが、部屋で1人になった途端、色んな感情が入り混じって自分がコントロール出来なくなる。
(なぜ捕らなかった…なぜ照明が目に入った…なぜ…)
自責の念。答えの無い自身への自問自答を何度も繰り返す。
そして、あの日の部室の出来事が頭に浮かぶ。
この1年あまり、自分なりに努力をしてきて、監督他、部員の皆から認めてもらってると思っていた。
だが、そうでは無かった。
(私を必要としない人もいたんだ……)
彼等の生の声を聞いた佳代は、怒りよりも、もっともな気持ちだと思った。
自分より劣る人間が試合に出場して、そいつのせいで負けた。
とあれば、グチるのも当然だ。
唇を噛んで、嗚咽を堪える佳代。だが、堪えれば堪えるほど、胸が痛くなり涙が溢れてくる。
「う……うぅっ…」
これまで、明け方までには何とか眠れていたが、とうとう今日は一睡も出来なかった。