ICHIZU…Last-9
「ナオヤ!テメェ!」
「貴様らにカヨの気持ちが分かんのかぁ!!今まで、必死にやってきたヤツの気持ちが!」
殴り続ける直也を2人が引き剥がし、顔面を殴った。
よろけながら後に倒れた直也。その時、ドアーを潜って山下と橋本が入って来た。
「年下相手に上級生が3対1じゃあ恥ずかしいでしょ。オレ達も入れて下さいよ」
山下がそう言うと、背の高い橋本は相手を威圧するように睨みつける。
「て、てめぇら部外者は引っ込んでろ!」
幽霊部員は精一杯の脅し文句を言い放つが、山下と橋本は鼻で笑ってる。
山下はいつもの冷静な口調で切り出した。
「アンタらと同じ野球部と思うとヘドが出るよ。どうせアンタらにとっちやぁ、野球部なんて内申書を良く書いてもらための手段だろうがな……」
「タツヤ!テメェ、いい加減にしろよ」
「そりゃ、こっちのセリフだろ?練習にも来ないクセに部室に出入りしてタバコを吹かしている。
どこが部員なんだ?」
3年生の顔がうろたえる。だが、ひとりは最後のあがきを見せる。
「どこに証拠が……」
山下の眼は冷ややかなまま彼等を見つめながら、
「証拠ねえ…」
山下はちょっと考えるフリをしながら、
「アンタらが喫煙してるとオレがチクったらどうなるかな?
ウチの学校が唾液検査をやってる位、アンタらも知ってるよな」
その瞬間、勝負あった。3人が黙って部室を去ろうとした時、橋本がその中のひとりの肩に手を置いて、
「2度と部室には顔を出すな。今度見かけたらタダじゃ済まさんからな」
直也に殴られた1人を肩に抱いて、3人はそそくさと消えた。
「ホラッ、大丈夫か?」
山下が直也の身体を起こす。
「すまん…」
「しっかしお前も血の気が多いな……」
「すまん……ついカッとなっちまって…」
「ならねえ方がどうかしてるだろ?」
山下と橋本は、そう言って直也の顔を笑顔で見つめる。
直也はこの時、こいつらと友達で良かったと思った。
直也は立ち上がると、
「こうしちゃ居られない!すまないな。ちょっと急ぐから」
そう言って部室を後にした。