ICHIZU…Last-6
「ただいま!」
だいぶ夜も更けた頃、ようやく建司が帰ってきた。
加奈はリビングから玄関へと建司を出迎える。
「おかえりなさい。随分遅かったわね?」
「残業さ。決算期に向けての資料作りでさ…」
「食事は?」
「ああ、済ませたてきたよ。風呂に入らせてくれ」
疲れたという表情で建司は言うと、スーツを着替えに奥の部屋へと向かう。
いつもは一人で着替える建司だが、部屋のドアーが開いて加奈が入ってきた。
建司は意外という表情で、
「どうしたの?」
「それが……」
加奈は言うべきかどうか戸惑った。すると建司が何気なく訊いた。
「佳代と修に何かあったのかい?」
「エッ!何で分かるの?」
加奈はスバリ当てられ驚いた表情を見せる。
建司は小さく笑うと、
「君が深刻な顔をしてるからさ。君は子供の事以外で、そんな顔しないよ」
加奈は夕食時の出来事を建司に伝えると、建司は再び笑いながら答える。
「ケンカでもしたんじゃないの?」
「でも……あんな雰囲気初めてだったわ」
「まあ、2、3日放っといてごらんよ。それでも変わらないならボクが訊いてみるから」
着替え終わった建司と共に、加奈も部屋を後にした。
リビングに加奈が戻ると、佳代が自室から降りて来ていた。
「どうしたのアンタ?こんな遅くに」
「うん……お父さんにちょっと」
「何?好きな人でも出来たの!」
加奈はわざとらしい口調で佳代を囃立てる。
いつもなら大袈裟なリアクションを取る佳代だが、その時はかすかに笑っただけだった。
2人の会話はそれきり途絶えた。
テレビでは甲子園予選のダイジェストが流れていた。佳代は素早くリモコンを取ると、チャンネルを変えた。
その姿が信じられない加奈。〈いつも野球の事なら喰い入るように見るのに〉と。
やがて風呂上がりの建司がリビングに現れた。首にタオルを巻いて、滴る水気を拭きながら、
「いやぁ!いい風呂だった」
建司は佳代に気づくと、リビングに据えてあるロー・ボードのテーブルのそばに座った。
加奈も建司のそばに腰掛け、佳代を見つめる。
建司が佳代に訊いた。