ICHIZU…Last-11
「カヨ!皆んな待ってんだ!帰ってこいよ!」
直也の声が家中に響き渡る。
佳代はヒザに顔を埋め、耳を塞いで嗚咽を漏らしていた。
(…なんで放っといてくれないの……)
「…ぐっ……うぅ……う…」
溢れる涙を拭おうともせず、佳代は静かに泣き続けた。
直也は加奈に玄関外に出された。
「直也君!もう、来ないでちょうだい」
加奈はそう言うと、ドアーを強く閉めた。
玄関外に放り出された直也は、起き上がると今度は佳代の自室へ叫んだ。
「オレは待ってるぞ、カヨーーッ!」
直也はしばらく佳代の部屋の窓を眺めていたが、やがてトボトボと帰って行った。
加奈は階段を上がり、佳代の様子を見ようとしたが途中で止めた。こういう事態も含めて辞めたはずだから、佳代自身が乗り越えねばならぬのだ。
加奈は階段を降りて、キッチンへと向かった。
ー夜ー
いつもの夕食。だが、佳代はダイニングに現れなかった。
建司に加奈、そして修は黙って食事を摂っていたが、
「オレ、姉ちゃん呼んでくるよ」
沈黙に耐えられない修は、立ち上がって2階へ行こうとしたが、建司が止めた。
「修、お姉ちゃんをソッとしといてやれ」
「だって!…お父さんは心配じゃないの?」
建司は修を諭すように、
「人間、1日位食べなくても死にはしないさ」
結局、佳代はその夜、家族に姿を見せなかった。
ー翌朝ー
「喉……渇いた…」
佳代は昨夜、泣き潰れたまま眠ってしまったようで、床の上で目覚めた。
自室を出ると階下のキッチンへと向かう。
思えば昨日の朝から何も口にしていない。
下に降りるが、人の気配が無い。どうやら、皆、出掛けているようだ。
冷蔵庫を開けて麦茶をコップに注いで佳代は一気に流し込む。喉が上下に動き、冷たさが通り過ぎる。
足りないとばかりに、2杯目をコップに注いで冷蔵庫を閉めようとすると、昨日のオカズがラップして入っていた。
(そう言えば、昨日の朝から食べてない……)
佳代はオカズとご飯を取り出すと、温め直してダイニング・テーブルに置いた。
煮込みハンバーグと温野菜のつけ合わせ。わが家の定番メニュー。デミグラスの匂いが食欲をそそる。
佳代は貪るように、食事を摂りだした。ハンバーグを茶碗に乗せてかぶりつき、ご飯をかき込む。
つけ合わせの野菜もソースをつけて口に次々に口に入れる。
飲み込んだモノが喉を通ってお腹に納まっていく感覚。
食事の途中で何度も麦茶を飲む。
額やコメカミからは、汗が滲んでいた。