光の風 〈貴未篇〉前編-1
圭の手の上にある白い球体〈永(はるか)〉はまばゆい光を発しながら宙に浮いた。首飾りにされていた鎖で飛び立つのを押さえているようだ。
〈永〉から出た光は圭の中に入り、光の強さを淡くさせた。圭は目を閉じ、ゆっくりと開いた。
光り輝いていた〈永〉は重力にしたがって彼女の胸の辺りに落ち着いた。
圭を纏う、その雰囲気はまるで違う。
「圭?」
呼ばれた圭は穏やかな表情で笑い応えた。
「貴未。」
明らかに今までとは違う、それは分かった。だけど頭の中でどうしてもその先が出てこない。可能性なんて一つしかないのに。
「私よ、マチェリラよ。貴未。」
彼女が答えた。確かに姿は圭だが、気のせいか全面にうっすらと人の姿が見える。圭とは違う、金色のふわふわとした長い髪に青い瞳。昔見たマチェリラの姿だった。
「マチェリラ。」
絞りだした声は少しかすれていた。
「圭の姿を借りて話しているの。久しぶりね、貴未。なんだ貴方すごく若いじゃない。」
マチェリラはふざけながら笑った。ただそれだけの事で、貴未は感情が高まり涙が溢れてきた。
思わず手を口に当てた。
「…泣かないで、貴未。」
貴未は彼女を直視できず、視線を落とした。
「貴未?」
「まさか、きみはもう亡くなっているなんて。」
覚悟はしていた、それを受け入れられる器はあった。しかし、目の前で笑う彼女を見て悲しみとも言えない感情が生まれてしまった。ただそれは心揺さ振る。
「時間の流れが違うんだもの。仕方ないことだわ。」
彼女は貴未の手を取ろうと近づいた。彼の手に振れ、顔に振れ、その感触を確かめる。時を超えた、友人との再会だった。
「大きくなったね。」
彼女の声は震えていた。どちらからだろう、お互いの名を呼びあい抱きあった。
ただ存在を確かめ合いたい、嬉しさや安堵感で心中はぐるぐると回っていた。気持ちを落ち着かせるために二人は抱きあったのかもしれない。
少し落ち着くと二人は少し距離を取った。
「無事で良かったわ。」
マチェリラは微笑み改めて貴未の姿を目に焼き付けた。
「マチェリラ、どうしてそんな姿になってまでオレを待っていたんだ?」
彼女の言葉が、より疑問符を生み出していく。マチェリラがそこまでした理由。