光の風 〈貴未篇〉前編-6
「そんな…一体だれに!?」
貴未の叫びにマチェリラは首を横に振った。
「カリオに行きましょう。私も行くわ。」
まずは前に進まないと憶測の域を超えられない、マチェリラはそう続けた。貴未は手の中にある〈永〉を見つめる。それを握りしめ頷いた。
マチェリラはそれを確認すると自ら光を発した。
「マチェリラ?」
「圭に体を返すの。」
マチェリラは光となり〈永〉の中に戻っていった。圭の体から光がなくなり、彼女はまた漆黒の瞳を取り戻した。
「お話ができたようですね。」
「ああ、ありがとう。」
貴未の言葉にほほ笑み、圭はお辞儀をしてみせた。それはマチェリラへの敬意の証。
「さぁ、行って下さい。軌跡は手の中にあります。」
貴未は頷き、瞳を閉じた。その瞬間、彼の背中から翼が現れた。銀のような金のような輝きを持つ翼、その光は貴未自身をも包んでいる。彼の体が少し宙に浮いた。
「これがカリオへの道。」
貴未はゆっくりと手を伸ばし日向に差し出した。茫然と見ていた日向も気を引き締め手を取る。
「圭、ありがとう。」
「お気を付けて。」
最後の言葉を交わし、貴未達は一瞬にして消えた。
かすかに残った光は空へと上っていく。圭はそれをずっと見ていた。
「圭、あの方々は?」
何か異変を感じたのか、キースが屋上に上がってきた。圭は空を見つめたまま、カリオへ、と呟いた。
「マチェリラ様はなんと?」
「昔馴染みの方に会われて嬉しそうでした。一緒にカリオへ。」
「そうか。」
キースも空を見上げた。もう光の欠片も見えないが、空一面に星達が輝いている。
「今までありがとう、これからは自由にと。そう私に残して。」
圭の言葉を聞き、キースは彼女に近づいた。肩にそっと手をおく、圭はキースを見て微笑んだ。
二人の視線の先は、カリオかもしれない星空に戻っていった。