光の風 〈貴未篇〉前編-4
「でも本当に無事で良かったわ。今までどうしてたの?」
「あの後、違う世界に飛ばされて。そこで助けてもらったんだよ。今もそこにいる。」
「そうなの。」
「日向ともそこで会ったんだ。」
貴未の言葉に日向は驚いた。マチェリラは少し離れて二人を見ている日向に礼をした。あわてて日向も礼をする。
貴未の手招きに日向は二人との距離を縮めた。
「オレは一人の力では飛べなかったから…自由に使えるまで時間がかかってしまった。」
「軌跡を失ったのね?」
貴未は頷いた。不思議そうな顔をしている日向に気付き貴未は口を開く。
元々、この力を使うには永という人物の力が必要だった。片翼と呼ぶに相応しい、二人揃うことで力を発揮する、二人で一つの翼。
失われた片翼を補うために貴未は何年も時間を費やした。
「日向さんが軌跡になったの?」
「ああ。」
貴未は日向の肩を叩いた。彼のもつ軌跡のおかげでここに辿り着き、そして今カリオへの軌跡を手に入れた。
カリオに行けば、自分の願いもカルサの願いも叶う。
「でもよく力を補えたのね、どうして?」
マチェリラの疑問はもっともだった。人一人分の力なんてそんなに簡単な物じゃない。
「オレの行った国に凄い人がいてさ!その人に力を分けてもらったんだ。」
貴未の表情が一気に明るいものに変わった。イキイキした目で嬉しそうに語る。マチェリラも思わずつられてしまいそうだった。
「凄いのね!」
「ああ、凄いよ!あの人は強くて優しい…偉大な人だ。憧れる。」
自然と貴未の手に力が入った。よっぽど尊敬しているのだと、傍から見ればすぐに分かる。
「いい人に出会えたのね。」
「ああ!その国の王様なんだけどな。」
住む所も金もない、途方に暮れた状況を救ってくれた。見ず知らずの自分を受け入れて、役目や力まで与えてくれた大恩人だと嬉しそうに貴未は続けた。
「本当に偉大な人だよ、カルサ・トルナスは。」
その名前をきいた瞬間、マチェリラの顔つきが変わった。
「マチェリラには信じられない話かもしれないけど、その世界には魔法みたいな力をもつ人がいるんだ。王様もそうで光の力を持っていてさ。」
「貴未。」
楽しそうに話す貴未の言葉をマチェリラは初めて遮った。その表情は声と同じように恐怖を含んだもの。あまりの変わりように貴未も不安になった。