光の風 〈貴未篇〉前編-3
マチェリラがどこにいるのか尋ねても、彼女は明かさずに必死の声でマチェリラの安否と貴未の居場所を尋ね返した。
自分の無事と貴未が行方知れずなのを伝えると、永は瞬時に判断しマチェリラに願い出た。
「貴未に気を付けてと伝えて。」
それが永が残した言葉だった。
「気を付ける?」
貴未の聞き返しにマチェリラは頷いた。貴未はとりあえず色々な想像をしてみる。数ある記憶を思い返しても、可能性を感じても決定的な物にはならない。
時を超えて、二人が伝えてくれた警告にしては軽すぎるものだった。
「目が覚めたときに手にしていたものが、これなの。」
そう言って〈永〉を持ち上げてみせた。マチェリラは首から外し、貴未の手の上に乗せる。
永が必死の思いでマチェリラに託したカリオへの軌跡。
「気を付ける…。」
もう一度呟いた。どれだけ頭の中を掻き巡らせても分からなかった。
「マチェリラ、それで永は?」
貴未の言葉に、マチェリラは複雑な顔をして首を横に振った。
「分からない。それ以来、永から何も連絡がなくて。ただ…あの時の永の声は尋常な雰囲気ではなかったから。」
「だから、オレを待っていた。」
どれだけの時を超えても、体が朽ちて魂だけになっても、貴未に伝える為にマチェリラは待っていた。その深い気持ちに貴未は涙を堪えきれなかった。
「ごめん。」
貴未は口に手を当て声を出さずに泣いた。大粒の涙が頬を伝わり手を伝わり、足元に落ちた。
日向はそんな貴未の後ろ姿をずっと黙って見ていた。自分にはない過去の記憶に切なさを覚えているのかもしれない。
「貴未、そんなに泣かないで。」
貴未は頷くことすら出来なかった。口を押さえていた手は目に、それでも涙は止まらない。
マチェリラは彼の両肩を撫でるように支えた。そっと頭を彼の腕に預ける。目を押さえた右手と下で固く握りしめた左手、貴未は自分の感情を押さえ込むのに必死だった。
「また会えた、それだけで私は私は本望よ。」
ぽんぽんと貴未の腕を叩く。貴未は頷き、涙を拭って笑った。
「ありがとう、マチェリラ。オレも会えて嬉しい。」
声はまだ震えていたけど、貴未はもう大丈夫だった。マチェリラも笑う。
「永の事はカリオに帰れば何か分かるかもしれないわ。」
「そうだな。」
手の中にある〈永〉を握りしめる。それは確かに温もりがあった。