光の風 〈貴未篇〉前編-2
「大切な友人だから。」
そう微笑んだ。
それは今までに見たことがないくらい、胸を打つ表情だった。
「…マチェリラ?」
マチェリラは一歩下がり貴未達に背を向けた。夜風がやさしく彼らに時を運ぶ。
教会の屋上から辺りを見下ろし、マチェリラは空を仰いだ。今はもう、いくら圭の姿を借りているとしても、貴未にはマチェリラにしか見えなかった。
「貴未、この屋上に覚えはない?あの遺跡の下に教会を作ったの。」
貴未は辺りを見回してみた。よく見ると屋上だけ造りが違う。
前にいた教会を取り壊し、新しくここに建てたのだと彼女は続けた。
「カリオへの入り口は遺跡。遺跡特有の空気が入り口を開きやすくしているんだったわよね?」
忘れもしない、昔から頭にたたき込まれた言葉だった。苦々しく貴未は笑う。
「ここは遺跡、そしてカリオへの軌跡もある。私はずっと扉を用意して待っていた。」
「マチェリラ。」
言葉の途中から、マチェリラは意識を遠くへ向けていた。何を思い出しているのだろう、少しの沈黙を作り上げた後、彼女は再び口を開いた。
「貴未と永がカリオに帰ると飛び立った日の事よ。」
また会おうと約束を交わし、二人は手を取り合ってマチェリラの前で飛び立った。
一瞬にして消えた二人の残像を目に焼き付けて、その場を去ろうとした時。ちょうど彼らの背丈程の稲妻が、さっきまで彼らが立っていた場所に起こった。
その光は鮮烈で空間を引き裂きそうなくらいの威力。マチェリラは不吉な思いを感じずに入られなかった。
「何かあったのかもしれない。私は心配で不安で…しばらくそこから動くことができなかった。」
古い記憶を呼び起こし、彼女は目を閉じた。身を縮めた姿は当時の気持ちを表していた。
「そんな日が何日も続いた。」
毎日空に祈り、ひたすら貴未達の無事を願っていた。
「いつからだったか、夢を見たの。朝起きると不思議な感覚になる夢。しばらくして、それは永が呼んでいたことに気付いた。」
「永が…?!」
貴未の声にマチェリラは頷いた。
永の姿がある訳ではない。ただ声だけがマチェリラを求めていた。どこにいるのと尋ねても、彼女はマチェリラの名を呼び願うばかり。
そんな夢が続いていた。
「でもある日、私たちは通じあったの。」
姿が見える訳ではない。でも声は届いた。