光の風 〈貴未篇〉前編-15
「ヴィアルアイ。」
その名を聞いた瞬間、マチェリラは口を押さえ身を退いた。動揺している。
『どういう事なの?彼はもう…っ。』
「太古の因縁はまだ終わってはいない。」
カルサは立ち上がり、ゆっくりと窓辺に向かった。何度見ても今日はいい天気だ。
「マチェリラ、裁判者を知ってるか?」
『裁判者…スターレンの事?』
思い出すようにマチェリラは呟いた。カルサは振り返り、そうだ、と笑った。その表情はどこまでも切なそうで、それはマチェリラにも分かった。
「オレの命で裁判が始まり、オレの体で世界を閉じる。」
その言葉にマチェリラの表情は一変した。驚きと共にきた脱力感、カルサの言葉の意味をマチェリラは分かっていた。
「人間制御装置。」
そう呟いたのはどっちだったか、いつのまにかカルサの横に光る竜が現れていた。黄金の羽をもつ竜。
カルサは右手を上げ、そこに乗るように竜を促した。
「光の精霊・桂か。」
腕の上に止まった竜は小さな声で鳴いた。カルサの笑顔はどこか寂しげで、マチェリラは思わず顔を背けてしまった。
耐えきれない気持ちから目を瞑り手で覆った。
『貴方は一体化できないわよ。』
マチェリラの声は震えていた。
『貴方は本来火の力を持つ者、その体が光を操るだけ。』
「知っている。お前には分かったんだな、オレやこの世界のカラクリが。」
マチェリラは答えなかった。カルサはマチェリラに近寄る。
「オレにもお前のカラクリが分かる。お前、体をどこに隠した?」
マチェリラの体が反応した。ゆっくりと顔を上げる、カルサと目が合った。
「お前は意識体だけで動いている。本体はどうした?それは貴未は知らないことか?」
『…知らない。さすがはカルサトルナス皇子ね。』
お互いに隠していることはたくさんある。それをお互いが知っていた。
『まずは私から話した方が良さそうね。』
話を切り出したのはマチェリラだった。カルサの腕の上にいた竜はいつのまにか彼の肩に移動していた。
『その前に…兄は…フェスラの行方は知らない?』
カルサは首を横に振る。あの苦々しい記憶がよみがえってきた。
「邪竜に。オレがこの手で殺した。」
そう、と呟きマチェリラは涙を流した。それは覚悟を決めていた涙、固く目を閉じ涙を落とすと昔話を始めた。