光の風 〈貴未篇〉前編-14
千羅がはった結界の気配に気付いたカルサは、貴未の傍に千羅が付いてくれていることも同時に気付いていた。
いつもよりも早く終わらした会議の後、会議室にはカルサ一人が残っていた。黙って自分の手元を見ながら考え込んでいる。
カルサのため息がいやに部屋に響いた。
「オレに何か用か?」
頭を動かさずにカルサは呟いた。周りをよく見ると淡い光がカルサの横にある。顔を上げて光の方を見た。
「誰だ?」
目を凝らしても光は光のまま、敵ではないことは分かるが正体が分からなかった。
やがて光は形をとり、マチェリラが自分の姿を現した。それでも分からないのか、カルサは目を薄めて探っていた。
『私が分からない?カルサトルナス。』
声を聞いてカルサは表情を変えた。その瞬間に思い出したのだろう、小さな声で名前を呟いた。
「マチェリラ?」
『久しぶりね。』
「本当にマチェリラか?なぜ…まさか貴未が?!」
『姿形は変わったようだけど…すぐに分かったわ。雰囲気と目はあの時のまま。』
カルサは左手を扉の方に向け、会議室に結界をはった。その表情から平常心とは思えない。
「予想外だな。」
何かしら掴んで帰ってくるとは思っていたけど、まさかこんな展開になるとは。カルサはそう呟きながら頭を掻いた。もうすっかり平常心を取り戻している。
「さすがは貴未と言ったところかな?白の竜族マチェリラ。太古の国の神官であるお前がまさか貴未と縁があったとは。」
マチェリラはただ黙ってカルサを睨んでいた。言いたい事は一つだけ、それを感じ取ったカルサは話すように促した。
『貴未を解放して。』
マチェリラが口にしたのはそれだけだった。しばらくは両者の睨み合いが続く、カルサは首を横に振ることで沈黙を破った。
「それはできない。」
『貴方達のせいでどれだけの人が苦しんだと思ってるの!貴未を巻き込むつもり!?』
「あいつは自分からここに来た。」
『迷い込んだだけだわ。』
「あいつはもう目を付けられている。」
『誰に!?』
マチェリラの声が部屋に響いた。怒りに満ちた瞳は常にカルサに向けられている。それでもカルサは同じる事無く、少し冷たさも感じられる程の口調で答えた。