『ショート プログラム』-2
『カッター』
自慢げに傷を見せびらかす子どもだった。
でも自分から傷をつけたことはなかった。そんな必要も無かったし。
高校二年になったころ、自分で傷をつけた人が一人友達に居た。
文房具としてのカッターで、すっと真一文字に手首を切っていた。
私と会ったころには既に付いていたその傷跡はなまなましく、でもきれいに真っ直ぐひかれていたので醜さは感じなかった。
その子はでも、私と会ったころには、明るい、ただの女の子だった。
「どうして切ったの?」
私は聞いてみた。
「もろもろの事情で。」
彼女は答えた、さっぱりと。
「もろもろの事情ね。」
「そう。」
「ふうん。」
私は納得できた。
もしあの時あの子が「死にたかったから」とか、ちょっと気取った心理分析家が言うみたいに、「心の傷を顕在化したかったから」とか言っていたら、私はきっとばかばかしいと思っていただろう。
彼女は彼女なりのもろもろの事情でそれをしたのだ。それでいいと思う。
私だったら、死にたかったら首を切る。傷を見せたかったら顔を切る。
不幸でなくてよかったと思う。
《あねのような》
「おなかが減った」
「そうですか。」
「奢って。」
「いやです。」
「なんで?」
「どうして奢らなくちゃいけないんですか?」
「けち。」
「そうですね。」
「まったく、いつも生意気なんだから。」
彼女は不満気な顔でまたすこし文句を言う。
「後輩にたからないでくださいよ。」
「後輩だからでしょ。」
そんなことを言って。
でも、僕が少し真面目な声で
「いいですよ、どこにいきましょうか。」
なんて言うと。
「え。」
ほら、困るくせに。