ヒトナツA-7
あまりに壮絶な体験をしてしまった二人は、しばし休憩のあとも順調に遊び尽くしていった。
しかし、いつの間にか日が落ちかけていたので夕食をとることに。
「こんなとこしかないけど…いいかな?」
「もちろんです」
着いた先は遊園地内のレストラン。
こういう店は値段の割になんだこれ、ってものが大抵は出される。
桜さんの口に合うかな…
「じゃ、じゃあ、入りますか」
「はい!」
お嬢様の桜さんだし、遊園地を出てそれなりの店に行くことも考えたが、桜さんは笑顔だ。
いいものが食べたいんじゃないのか?
店内に入り、空いていた席に着くと、二人はどこにでもあるようなスパゲッティーを頼んだ。
ちなみに、俺がミートで桜さんがカルボナーラ。
料理を待っている間、つい気になって聞いてみた。
「……あの、桜さん、こんな店で大丈夫ですか?」
「え?」
「普通のレストランだし、こういうとこのってお口に合うかどうか……」
すると、桜さんは笑顔になる。
「大丈夫です。遊園地に来たんだから、遊園地で食べたほうが楽しいじゃないですか」
「そうですか」
しかし、俺は気付いていた。
桜さんが一瞬、悲しそうな顔をしたのを。
やっぱりダメだったのか?
しかし食事が運ばれてくると、桜さんはニコニコしながらスパゲッティーを食した。
やはりフォークの使い方は美しい。
「おいしいですね」
「え!あ、はい」
わけがわからなくなってきた。
店を出て、辺りを見回す。
そろそろ時間も遅くなってきたし、帰ろうか。
そう言おうと思ったとき、桜さんは言った。
「健吾くん、最後にあれに乗りませんか?」
「……はい!」
それは、イルミネーションを放つ、巨大な観覧車だった。
***
「すごい!」
「綺麗ですね」
観覧車は、都心の夜景をいっぱいに映し出していた。
キラキラ光る世界に釘付けになっている桜さんの横顔は、とても綺麗だった。
気付けば頂上付近。
「……」
「……」
なんだか感慨深くなり、お互いに黙ってしまう。
「あの!今日は本当にありがとうございました」
均衡を破ったのは桜さんからだった。
「こちらこそ、楽しかったです。でも、その……」
「…?」
俺は気になることをぶつけてみた。
「本当に、あんな感じでよかったのかなって。ほら、桜さんにはあんなの似合わないし。次はもっといいとこに…」
「……っ」
桜さんは押し黙る。
一体、さっきからなんなんだろう。
ちょうど観覧車が頂上に着いた。
ガタン、と小さく揺れる観覧車。
そのとき、何かが起きた。
「うわっ」
桜さんが前のめりになったかと思うと、俺に派手に激突したのだ。
「桜さん!」
慌てて抱き寄せる。
うまくキャッチできた。
それにしても温かい。
「だ、大丈…っ!!」
俺の唇に何かが触れた。
柔らかく甘い何かが。