冷たい情愛4〜冷たい目〜-3
「設楽さんは、今日泊まりですか」
荷物を見て分かったのだろう。
「はい、家が遠くて終電が無くなってしまうんでホテルに…」
…遠藤さんは、なぜここに?
と聞こうとするが言葉が出ない。
「私は仕事で厚木まで行った帰りです」
まるで私の考えていることが分かるみたいだ。
そして、彼は突然言った。
「私の家に、泊まりますか?」
まるで彼は、それが普通のことであるかの様に。
「え…?」
その時の私は、目の前の男が何を言っているのか分からなかった。
泊まる?
聞き間違えだろうか?
仕事上の関係…取引先の人間の家に泊まるなど…絶対に考えられないのが大人なのだから。
さらにそんなことを口に出して誘うこと自体…彼も相当なリスクがあるのだ。
それを分かっていて言っているのか…?
分からないはずがない。
どういうつもりで…。
彼の目は、じっと私を見ている。
しかしそこには、なんの思惑も感情も見えない。
仕事の時と同じく、ただ淡々と業務を処理しているかのような顔だ。
いいんですか?…
いえ、そんなわけには…。
どう答えようか必死に考えたが、結局私は…
「はい」とだけ答えていた。
タクシーに乗る。彼の横に座る。
彼の横に座るのは勿論始めてだ。
仕事中は、必ずテーブルを挟み向かい合って座るからだ。