十八の冬〜カガミヅキ-1
必ず、迎えに行くから――。
『それじゃ先輩、今日はありがとうございました。それに送ってもらって……』
「あぁ、別にいいよ。俺も気晴らしになったし」
梨花ちゃんの言葉に、軽く相槌を打つ。
彼女は白い息を吐きながら俺におやすみの挨拶を言うと、玄関へと歩いていった。その姿を見送り、俺も帰路に着く。
空は透き通るような闇に覆われ、星と月がお互いに輝きを放っている。
世間では年の瀬ということもあり、そろそろクリスマスだなんだと騒ぎだす頃だ。
一年半。
去年の夏に真理と連絡が取れなくなってから、もうそれだけの時が経つ。
いつか連絡が来るだろう。そんな甘い考えが今でも頭をよぎる。
世界が全て灰色になる最後の一線を、この感情が繋ぎ止めていた。
梨花ちゃんは、そんな俺の気持を察しながらも側にいてくれる。
今年の夏に彼女に告白された時、俺はどうしても真理を彼女に重ねてしまうことを理由に断った。
だが彼女は、それでもいいと言った。
『早瀬先輩の代わりでもいいですから』
それ以来はっきりと口にはしないが、一応付き合っているような関係が続いている。
ただ、誰かに側にいてほしかっただけなのかもしれない。真理でも、梨花ちゃんでもなく。ただ誰かに。
そんなことを考える度に、自己嫌悪に陥る。
俺は推薦をとっていたため、別に今の季節でもがつがつ勉強しなくていい所が唯一の救いだ。おかげでさっきの様に遊ぶこともできるし、自分の時間を持つことも出来る。
「これで、終わりかな……」
俺は真理がどこの大学に入るか知らないし、連絡も取れない。だからお互いに高校を卒業したら、もう会うことはないだろう。
これが現実なのかな……と思う。事実そうだろう。
だけどあの時、桜並木で見た真理の姿が、まだ俺に夢を見させているんだ。
だからかもしれない。
不意にポケットに感じる振動。俺は突然に来たメールの宛名を見て、これは夢なのかと思った。