十八の冬〜カガミヅキ-4
「さぁ、どうだろうな」
『もう、夢がないよ勇は』
そんな一言を言った後、真理はこちらを振り向いて頬を膨らませる。
光が戻ってくる感覚が俺の身体の中を巡る。俺は、こんなにもこいつを好きだったんだ。
『私、来年ようやく三年生になるんだ』
「ん……」
そうだ。真理は足の怪我で……出席が足りなかったのだろう。だがその声色には、不満というよりは嬉しさの様なものが混ざっていた。
『ねぇ……勇はさ』
「ん?」
『……やっぱりいいや』
不意に真理の足が止まる。思わず倣って歩みを止めたのは、それ以上近づいてはいけないような気がして。
真理の顔から笑顔が消える。替わりに浮かんできたのは困惑の表情。
『私、必ず戻ってくるからさ……だから』
「なぁ真理」
息を吸い込んだまま、彼女の口は止まる。この先の台詞なんか大体予想できる。だから、聞く必要もなかった。
すっと彼女の目の前に手を出し、中指と親指を曲げる。
ペシッ
『う゛っ』
額をおさえて呆然とする真理を見ていると、喉の奥から震えがこみ上げてきて。俺は思わず笑ってしまった。
『な、なに。なんなの』
「くっくっ……あっはっは!だってお前バカみたいに口を開いてっくっくっくっ……」
一しきり笑い終わるまで待っている真理の姿がまた面白くて、こらえるのに結構な時間がかかってしまった。
笑い終わった俺を見て真理は口を開こうとしたが、先手をとって彼女の頭の上に俺は手のひらを置いた。
緊張で胸の鼓動が早くなる。言わなくてはいけないと考えながら、実際はこんなに勇気のいることなのかと痛感していた。
『勇?』
唇が乾く感じがする。どう切り出すかとか、真理はどう思うかとか。そんな事を考え始めると永遠に言葉が出ない気がした。
「前にここで話したこととか、覚えてるか」
『……大体は』
「俺が大学行かないで働くって言ったのも覚えてる?」
『うん。あの時の勇の必死な顔は面白かった』
口を出たのは考えじゃなかった。
これは多分俺の本心なんだと喋りながら思ったんだ。