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ネコと煙草とコーヒーと
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ネコと煙草とコーヒーと-1

彼と付き合って少しした頃、彼がネコを飼っている事を聞いた。

「そうなんだ!あたしネコ大好きなの。今度会わせてね」

「あぁ、今度会いにおいで。ベージュの、みぃって言うんだ」


次の休み、あたしは彼の家へ遊びに行った。
…彼氏の家って初めて。前の彼氏は実家だったから、遊びに行かせてくれなかったのよね。

「一人暮らしだからさ、気兼ねしないで入っておいで」

緊張して玄関で立ちすくんでいるあたしに気を使って言ってくれたんだろうけど、そんな事言われたらますます緊張しますって!

「はは、大丈夫。いきなり襲ったりはしないから」

なんだ、と安心とも残念とも取れる溜息をひとつ、小さくついて部屋に上がった。

「適当に座ってて」

と、言って彼はキッチンへ向かう。

「はぁい。おじゃましまーす」

あたしはベッドのそばの、小さなテーブルの前に座った。


すぐに、いい香りと共に彼がコーヒーを2人分運んで来た。

彼はコーヒーを一口飲んで、煙草に火をつけた。
コーヒーの香りと、煙草の匂い。
大好きな、彼の匂い。

あたしもいただきます、とコーヒーを一口飲んだ時、ニャーと声がした。

「お、ネコちゃんのお出ましですね〜」

そう言って彼はみぃを連れて来た。
よろしくね、とみぃの頭をお辞儀する格好にさせながら、あたしのひざの上に乗せた。

「初めましてー、みぃちゃん。よろしくね。」

あたしが頭をなでると、みぃはすぐに彼の方に行こうとしたので、もうちょっと遊んでよー、とひざの上に座り直させた。
するとみぃが、あたしのほっぺにネコパンチをくらわせた。

「にゃん!」

これは、あたしの驚いた声。

みぃはあたしに向かって
「シャー!」
と威嚇して、何事もなかったように彼のひざの上に落ち着いた。煙草をくわえ、ほけーっとTVを見ていた彼にあたしは、

「みぃちゃんにネコパンチされた〜」

と泣きついてみた。

彼はみぃを抱き上げ、

「みぃちゃん、どうしたの。なんかやな事でもされたの?」

と、あたしがまだ見た事も聞いた事もないような、優しい瞳と甘い声で言った。
あたしは悔しくなって、ふい、とそっぽを向いて、さっきのコーヒーをまた飲んだ。

「ん、亜由?どうしたの?」

彼がまだみぃとじゃれながら、ちょっと面白そうに聞いてきた。

「知らないっ。あたしより、大好きなみぃちゃんと遊んでればいいじゃない」

ちょっと拗ねながらもう一口コーヒーを飲んだ。


急に、後ろからふわっ、と煙草とコーヒーの香りに包まれた。

「なに拗ねてんの。…妬いた?」

「もうっ知らない!」

心臓がドキドキいってて、彼にも聞こえちゃいそうで。
きっと、耳まで真っ赤。

「亜由の方が好きだよ。だって、ネコじゃこんな事、できないしね」

今の声、さっきみぃちゃんに話してた声より甘かったな、なんて思った瞬間、くるっと後ろを向かされたと思ったら、一瞬、唇に柔らかな熱。

彼と目が合って、

「みぃちゃんが見てる」

あたしは照れくさくてそんな事を言った。


みぃちゃんが、ニャーって鳴いた。

煙草と、コーヒーの香りが、した。


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