結界対者 第三章-9
「……?」
声の主は、先程黒塗りの車から降り立った、どうやら高価そうな背広を纏った、とはいえ若く線の細い感じの男だった。
そいつは、緩やかに歩き迫りながら、こちらに近付くと、俺の顔を覗きこみながら
「昨日は、ウチの若いモンが世話になった様だね」
と、ニヤリと笑う。
栗色の髪と、端正な表情、そのセリフとはあまりにもミスマッチなルックスに、俺は言葉を失いながらも
「アンタ、何者だ?」
なんとか睨みつけながら、言葉を返す。
「ああ、失礼した。私は……」
男が言いかけた時、それまで黙っていた間宮が、突然力強く吐き捨てる様に、叫んだ。
「樋山っ! アンタ、なんでここにいるのよっ!」
―4―
「久しぶりだね、セリ」
放課後の校門前に突如として現れた男。
黒塗りの、運転手付きの外車から降り立った、その樋山と呼ばれた男は、突然の間宮の声に驚く事も無く、この状況に限り無く不釣り合いな優しい笑みを浮かべながら間宮に語りかける。
てゆーか、こいつら、知り合いなのか……?
間宮は戸惑いを隠せない表情のままで少しうつ向き、心なしか顔を赤く、そして何処か悔しそうに唇を噛み締めながら
「なんで、いまさら、アンタなのよ……」
消え入りそうな声で呟く。
「帰ってきたのさ、全てにケリをつける為にね」
「ケリ? まさか、アンタ、まだあんなバカな事……」
「いや、現に私は結界との決別を果たした。そして今度は、最終段階……」
「うるさいっ!」
言いかけた男…… 樋山に、刺す様な赤い視線を烈しく突き付ける間宮。
そして
「いきなり使命を棄てて、いきなり居なくなって、いきなり戻って来て…… バカにしてんじゃないわよっ!」
体を震わせながら叫ぶと、踵を返し刹那に走り出した。
「ちよっと待て、間宮!」
呼びとめるが届かず、しかも追おうする俺を、今度は別の声が呼びとめる。
「行かないで欲しいな」
「……?」
樋山って奴……
「……私は、君に会いに来たのだよ? 柊、イクト君」
こいつ……
「あんた、何者なんだ?」
「樋山セイジ…… いや、君には、焔の大石の対者と言ったほうが解りやすいかな?」
こいつ…… が?
いやまて、だったらこの前、忌者が現れた時にコイツも導かれた筈だ。