結界対者 第三章-8
「まあ、いいわ! 今日の放課後は、ウチの店に来なさいよ?」
「え?」
「仕方がないから、何か食べさせてあげるわよ」
「あ? ああ……」
「いつまでも、シケた顔でいられたら、困るからさっ」
そう言い放つと間宮は、踵を返して校舎の方向へと駆け出した。
別に、構わないけどさ……
俺は足を停めたまま、なんとなくそれを見送る。
高く上りかけた陽射しが走り去る間宮に注ぎ、淡く輝かせながらその影を短く伸ばしている。
まあ、放課後は暇だからな……
心なしか、先ほどの重い気分が薄れて行くのを感じながら、ゆっくりと歩き出す。
すると、暖かい微風が足早に鼻先を駆け抜け、同時に彼方で予礼の鐘が微かに鳴り響くのが聞こえた。
しかし、だ。
やはり、二度ある事はなんとやら、だった。
つまるところ、昨日から続いていた『うまくいかない流れ』は、放課後に最悪の形をもって、俺の前に立ち塞がったのだ。
いつも通りに校舎を出て、間宮と待ち合わせ……
歩き出した、俺達の前に待ち構えていたのは、校門前に横付けされた黒塗りの外車と、それを囲む様に佇む昨日のアレより更に柄の悪そうな男達だった。
「ちょっと、柊! あれ……」
間宮が顔を引き攣らせながら、その車の方向へ視線を固める。
ちなみに俺も、右に同じ、だ。
そこに、それが在って、そいつらが居る理由を、俺達は十分過ぎる程解ってしまう。
それは、言うまでもなく、昨日の出来事に因るものだろう。
「柊のバカ、あんな厄介な奴らに構うから……」
「そんな事言ったって……」
小競り合いをしてる場合ではなかった、彼方の男達は此方に気付いたらしく、俺達の…… いや、俺の居るこちらへ向けてゾロゾロと歩いてくる。
そして、それと同時に、黒塗りの車の後部ドアが開き、中から誰かが姿を覘かせた。
「柊ってのは、おまえか?」
男達のうちの一人が、俺に向かいながら問掛ける。
「だったら、どうだってんだ?」
「ちょっと、来てもらおうか」
「……男にナンパされる趣味はねーよ」
言いながら睨み返した刹那!
その男の拳が風圧を帯ながら、突然俺の顔面に迫る!
……っ、やべえ!
「きゃあっ、柊っ!」
やられる!
そんな直感と、間宮の悲鳴!
しかし、それら全てを制する声が
「やめろ!」
彼方から響き、それと同時に男の動きは、ピタリと止まった。