結界対者 第三章-6
「ひ…… 柊、お前って何なんだ…… 」
ピアスの口許が、頼り無く動く。
もう、こうなったら、アトの祭りだ。
「さあな」
「さあな…… って、おい……」
「おい、オマエら、今見た事、絶対に黙っとけよ? でないと、どうなっても知らないぜ?」
我ながら、これは酷い、こいつらを助けた筈の俺が、まるで悪役だ。
しかし、更に
「もう『これ』で学校移るのも面倒だからよ、な?」
意味深なデマカセを追加してダメ押し。
三馬鹿達は、首を縦にカクカクと降り、俺は……
平静を装いつつも、雪崩の様に押し寄せる後悔に、心を埋め尽されそうだ。
全く、なんで、こんな事をしちまったのかね。
それから、程無くして、三馬鹿達は逃げ失せる様に街へと消えた。
遅れて、起き上がったゴロツキ共も同じ様に消えて、路地には俺だけがポツリと取り残された。
うまくいかないもんだな……
俺は、空っぽの路地に立ち尽くし、思わず溜め息を溢す。
別に感謝の言葉を受けたかった訳ではなく、この事をきっかけに三馬鹿達と仲良くしようとした訳でもない。
ただ、今言える事は、こんな筈じゃなかったって事だけだ。
だいたい、人助けなんて、柄にもない事をしようとするから、ろくな事にならない。
どうかしてたのかもな、俺はさ……
ふと気が付くと、既に日は落ち、路地に連なる店々のネオンに、ボンヤリと明かりが灯り始めていた。
今日は、もう帰るかな……
先ほどから随分と時間も過ぎた。
間宮だって、とっくにアイスを食べ終ってて、遅くなった俺を待ちきれずに家に帰ってる筈さ。
俺は、再び、今度は少しだけ溜め息をついてみた後、夜を迎えたばかりの大通りへと、静かに歩きだした。
―3―
「おはよ、裏切り者!」
翌朝、である。
いつもの待ち合わせ場所、大通りの手前のタバコ屋の前で、向かい行く俺を見付けるなり、赤い瞳を光らせながら冷酷な笑みを浮かべて間宮が言う。
明らかに、怒ってるな……
もしかしたら、間宮は待っていたのだろうか。
いや、コイツに限って、そんな事は……
「待ってたのにさ、なんで来ないのよ」
「でぇっ、マジかよ?」
「マジかよ、じゃないわよっ! 奢るとかなんとか、都合の良い事言っちゃってさ!」
意外だ…… 全くをもって、意外だ。
予想だにしていなかった展開に、戸惑う俺。
当然、気の効いた言葉などは返せる筈もなく、そんな俺に間宮はさらに容赦なく
「とりあえず約束は守りなさいよ、裏切り者!」
と、何か紙切れの様なものを差し出しながら、追撃を加える。