結界対者 第三章-25
「これが…… 西洋呪術ってヤツかよ……」
「違う」
思わず呟いた俺に、間宮が吐き捨てる様に応える。
「様式は違う、でもアレは間違いなく、焔の対者の力」
焔の対者……
炎の塊となった樋山は更に激しく燃え上がり、巨大な火柱となって空高く吹き上がる。
かと思えば、それは螺旋を描き、飛び回るガーゴイルをめがけて鋭く突き刺さって行く!
こいつは……
「間宮っ、伏せろっ!」
気付かぬうちに、叫んでいた!
そして、間宮に飛び付き、そのまま地に伏せていた!
そんな俺達を、激しい爆風が削る様にかすめ、猛然と行き過ぎていく。
呼吸すら許さないそれは暫く続き、やがて訪れた静けさとともに、散りながら消えた。
「間宮…… 大丈夫か……」
「ん、柊……」
体を起こし見渡したそこには、もうガーゴイルの姿は無かった。
そして、樋山の姿も……
「……まずいっ! 間宮、刻転だっ! 出来るかっ?」
「え? ああ…… 」
ガーゴイルは間違いなく消えた、それは解る、感覚で解る!
しかし、樋山は…… お願いだ、何処かに埋まっていてくれ!
「……っ、刻・転!」
間宮が叫び、刻が戻り始める。
壊れた全てが、姿を取り戻し始める。
お願いだ…… 樋山、消えていないでくれ……
そこは、ほんの数十分前の、樋山のオフィスだった。
目の前の広い窓には祭壇が映り、駆け寄り眺め見た眼下には、来場者が溢れ返っていた。
樋山は…… ?
無言のまま辺りを見回す、しかし樋山の姿は無い。
「間宮…… これって……」
言い掛けたその時、突然エレベーターのドアが開いた。
かと思えば、その中から例の店員達がゾロゾロと走り出て、俺達に声を投げる。
「おい、あんた達、樋山さんを見なかったか?」
「……?」
「畜生、なんてこったガーゴイルはともかく、いきなり樋山さんまで居なくなっちまうなんて……」
それを聞いた途端俺は言葉を失い、間宮は……
力なく崩れる様に、床に座りこんだ。
「バカよ……」
慌ただしく去り行く男達の声に書き消されながら、間宮が呟く。
「ホントに、バカ…… 消えちゃう事ないじゃないのよ……」
「間宮……」
今、必要な言葉が見付からない……
間宮の赤い瞳から溢れる、涙を止める為に必要な言葉が。
「バカ…… なんなのよ、本当に…… いい加減にしてよ……
セイジのバカァァァァァッ!」
悲痛な叫びが、部屋中に響く。
窓の外には、その役目を永遠に果たせぬであろう祭壇が、静に鈍く光を放っていた。
続く